わち

フォックスキャッチャーのわちのレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
4.5
大富豪による五輪メダリストの殺人というショッキングな実話を基にしたベネット・ミラー監督作。
色調も音楽も抑えられた映像で一見すると地味な映画ではあるが、レスリングのメダリストのシュルツ兄弟とその弟のスポンサーに名乗り出た財閥の御曹司デュポン、その3者それぞれの間に生まれる感情の情報量が凄まじく、人を人たらしめているとも言える嫉妬・尊敬・反発・虚栄心・承認欲求によってミシミシと音を立てて人間関係に歪みが生まれていく様が生々しい。
中でも当然特筆すべきはスティーブ・カレル演じるデュポンで、兄から自立したい弟マークと最初は互いにカネしか/レスリングしかない2人が寄り添うようにしてレスリングチーム「フォックスキャッチャー」を作るも、結果が出ずに苛立ったり、指導するポーズを老いた母に見せたりと、その虚栄心はもはや子供じみていると言っていいほど。ただしそれに苛立たせられるかというとそういう訳ではなく、ところどころで示唆される彼の孤独に鑑みると悲しくなる。ラスト近くで、自作の「フォックスキャッチャー」の理念を自ら語る映像を眺めるデュポンの虚無感あふれる表情が非常に印象的。

序盤に共依存的な関係に陥るがそれが崩壊してしまうあたり、“マスター”になれなかった『ザ・マスター』とも言えるし、こちらの方がより自分たちに近い感覚である分グッとくる。レスリング選手の役作りも含め、主演級の3人には個人的にアカデミー賞をあげたいです(現時点で他のノミネート作日本未公開が多いけど…)
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