映画おじいさん

夜の終りの映画おじいさんのレビュー・感想・評価

夜の終り(1953年製作の映画)
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路上で酔い潰れていた保険の外交員から出来心で金を強奪。夢中で逃げて気づいたら血塗れの石を握りしめていた…。

そんな池部良の逃亡劇なんだけど、彼が何を考えているのかが分からないし、素人とはいえ金を恋人が勤めるバーに置き忘れたりと犯行後の行動がマヌケ過ぎてモヤモヤしながらの序盤。本当は良い人なんだか、自分のことしか考えていない本当に悪いヤツなんだか。。

しかしそれが改善されることなく、しつこく続いていくうちに何だか幻想的な物語に思えてきて、さらにはこれは傑作かも?という思いまでも。

農村不況から脱して普通の生活を送ろうと上京するも数十の職を転々として今は下水工の池部良。彼が本当に世の中に必要にされたのは戦時中の玉砕用員としてだけだったのかも、というような容赦のないナレーションに震えた。

恋人・岡田茉莉子と待ち合わせのミルクバーに警察官たちが同行していたのを目撃して逃亡。あとで電話で岡田茉莉子にそのことを問いただすけど、口ぶりからして彼女を全く疑っていないのが面白かった。ちょっと頭が弱いんじゃないかと。

自首しようと仕事の同僚・志村喬と警察署の前までやってくるも、逮捕されて暴れる他の犯罪者を見て、逃げ出してしまうのが何考えているのか分からなくて面白かった。今さら怖くなったとは到底思えないし。

そしてクライマックスは子持ちのババア娼婦・三益愛子との出会い。
クズ人間同士何でも話そうよとの優しい言葉にコロッといった池部良が強盗殺人のことを話すと三益愛子の態度がコロッと豹変。クズはクズでもあんたみたいな犯罪者じゃないんだよ!と罵られて池部良は絶望……これまた容赦のない最高のシーン。

しかし、絶望して部屋を飛び出す池部良の背中に向かって「(自殺とか)短気おこすんじゃないよ!」とまた優しい言葉を投げかける三益愛子もまた何を考えているのかが分からなくて素晴らしい。

「(出来心で罪を犯した池部良よりも)3年も共働きしても四畳半の部屋を借りることさえ出来ない世の中が悪いのよ!」と警察署で生意気な演説をぶつけど、二十歳の岡田茉莉子はまだ女優さんという感じではなくアイドルっぽい。そのことによって岡田茉莉子にも何考えているの?感があった。

ベタな藤原釜足の人情オチもこんな救いのない話に咲いた一輪の花のようで最高でした!