ねこたす

インサイド・ヘッドのねこたすのレビュー・感想・評価

インサイド・ヘッド(2015年製作の映画)
-
ド級の傑作だった。最近はディズニーやらピクサーやらに食傷気味で、LEGOムービーがアカデミーのアニメ部門で負けてからはクソがという感じもあった。それに、ピクサー自体も、カーズ2、メリダ、ユニバーシティと微妙なところが続いていたように思う。それでも、やっぱり世界一の作り手たちが紡ぎ出す物語は最高だ。

話や使われる単語が子供向けじゃないという人がいるが、これだけ分かりやすさに特化した視覚表現があってそれはないだろう。見ているだけで楽しい。ヨロコビのちょっと毛糸っぽい質感や、色の使い方。それぞれの感情のデフォルメの仕方も練りに練った感がある。

語り口もまた見事なのである。冒頭5分で必要な説明と、物語に引き込む力がとても強い。これが頭の中の話で、その頭の中の持ち主ライリーと家族はこういった人々で、楽しい日々を過ごしてきました、とすぐ分かる。
この辺りは、「カールじいさんの空飛ぶ家」の冒頭を思い出す。手際よく良いのだから、一石二鳥である。

楽しく過ごす、11歳の少女に心配することはない!と見事にフラグを建てるところも笑えるが、いくら脳の司令部が優秀だろうと運命には逆らえない。
引っ越しという一大イベントで新しい環境でやっていかなければいけなくなったライリー。家族も自分もなんだか上手くいってない。

見始めてから、これはけっこう危ないバランスの語り口だなーと思った。感情の中心たるヨロコビが見る人には不愉快になってしまうぐらい、マッチョイズムなのだ。
どんなことがあっても"楽しい"ことが最優先! 笑って楽しいことを考えていれば、全てOKという具合。
対になるキャラクターのカナシミは、記憶に触れてしまうと悲しい記憶に文字通り塗り替えてしまう。そんなことをされては困ると、「カナシミ」はその円から出ない!でなんて言い放つ始末。「明日も私が楽しい一日にするからね」と誓うヨロコビにあるのは使命感なのか。個人的には過干渉だと思うけど。

自分も転校を経験したから、あのライリーの気持ちはすごい分かる。自分以外は知り合い同士の教室に放り込まれる恐怖。友達が出来なかったらどうしよう、とやはり思ったものである。

と、新環境であたふたする中、ヨロコビとカナシミは手違いで脳の奥深くへ飛ばされてしまう。
長期保存の棚や、空想エリア。イマジナリーフレンド、抽象概念と全てが本当に楽しい出来上がり。特に、概念が解体されていく様は、視覚的にこう見せるか~と唸るようなもの。
長期保存の棚も、ヨロコビカラーの黄色が多くあるのが印象的だった。夜に輝いているのを見ると、今まで楽しい日々を過ごしてきたんだろうなって。
携帯を持ったから、携帯番号は忘れようねとか。妙に頭の中に残るフレーズや曲は、おまえらがいたずらしていたのか!と納得してしまうほど。
全てに細かく触れないけれど、科学的に調査したものを子供向けアニメに落とし込むその技量はやはり文句のつけようがない。

そんな脳みそランドが少しずつ壊れていく。感情が無い、壊れるといった表現はあるが、それは無表情なだけだ。それを、脳みその中ではこんなことが起こってるのかと、視覚的に見せる恐怖感。
色の使い方で言えば、引っ越し初日ではライリーは虹色の服を着ている。感情豊かなメタファーだろうが、家を飛び出すところでは全身黒づくめなのである。その辺りも上手い。

邦題の「インサイド・ヘッド」も分かりやすい。そこまで原題をいじっているわけではない。しかし、"Inside Out"には「裏返し」という意味がある。製作者たちの一番伝えたかった直接的なメッセージが失われてしまっているのはやはり残念なところ。ヨロコビの髪色が象徴的だ。
ヨロコビは良くも悪くも考えなしに突っ走ってしまう。空想ランドで楽しむヨロコビにカナシミは警告する。辛い時に空想に入ってしまうなんて、現実逃避のようだ。
それでも、空想に救われることがある。それを物語的に大事な場面で使う。
友達が悲しんでいても、ヨロコビは寄り添うことができない。悲しんでいたライリーを家族や友人達が励ますことで、楽しい記憶として残っていくこともあるのだ。

笑いたいときに笑いたい。それと同じように、泣きたいときに泣きたいし、怒りたいときに怒りを表明したい。それが多感で感情豊かというものではないだろうか。世の中楽しいだけの映画だけじゃつまらない。悲しい映画だって必要だ。

そうやってライリーは吐露することで、両親に思いを伝えることが出来た。そうやって人は乗り越えていくのだ。

そしてこれがライリーの頭の中だけの話で終わらないところもまた良い。両親のそれぞれの頭の中なんて、子供と一緒に観に来た親に直撃だろう。冷静に分析し、夫にメッセージを送るが夫はサッカーに夢中で気が付かない。そういったズレを笑いに変えるのだ。
EDのそれぞれの頭の中紹介も軽快で楽しいし、何よりホッケー少年の「女の子だ!!」という衝撃に、自分も男として全面同意する。

日本の映画に付けられるキャッチコピーには本当にうんざりすることが多いけれど、「これは、あなたの物語―」というフレーズは良かった。そう確かに、これは自分の物語だった。