Mao

007 スペクターのMaoのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
3.5
※長いので、1st paragraphとtagをsummaryとしておく。
前作『スカイフォール』を大傑作として称え、期待をもって迎えた本作だが、高すぎたハードルは越えられなかった。ただし、本作は視点の転換が必要と言える。おそらく、将来的にターニングポイントと評される作品になるのではないか。

ダニエル・クレイグがJames Bondを演じてきた過去3作は、これまでの007シリーズからは一線を画し、007という殺しのライセンスを与えられた駆け出し時代(『カジノ・ロワイヤル』)から、隠された生い立ち(『スカイフォール』)を描いてきた。もはやリブート版007とも言える内容で、シリアスな雰囲気、色男ではないJames Bond、ガンバレル・シークエンスのないオープニング、イギリスというブランドを重視し前面に押し出してきた。まさにこれまでの因習を打破してきた画期的なシリーズだった。その中で、結果的に前作『スカイフォール』は一つの完成系だったと言えよう。

本作のよろしくないところは、サム・メンデス監督の続投でシリアスな雰囲気が継続され、美しく印象的な異国情緒溢れる映像、あの歴史的な名曲・アデルのSkyfall(個人的に映画史上最高の主題歌だと思う)に比肩するサム・スミスのWriting's on the Wallを掲げながら、やっていることがこれまでのボンドシリーズのけれんみある内容なのである。
私は、2回観て、サム・スミスの歌う主題歌のところまでで涙が出そうなぐらいテンションは最高潮だった(OPの映像はさすがに前作には敵わないふが)。今回は遂にガンバレル・シークエンスが冒頭にきて、これまでのシリーズ通りとなった。よくよく考えれば常にミッション失敗ないし護衛対象が死亡してきたダニエル・クレイグ版ボンドが、前作を経てついに一人前のボンドに成長したと見なされたのだと解釈した。
そこまでは良かった。
しかし、その後はシリアスな雰囲気ながら、脚本的な粗さが目立ちだす。展開や演出が大掛かりと言うべきか。そこの解離がシリアスな分、かえって目立つのである。
本来の007とは、緻密性よりも、セクシーでド派手なアクションが売りのシリーズである。
そして、本作はこれまでの007シリーズへのオマージュが非常に目立つ。恥ずかしながら、ショーン・コネリー版とジョージ・レーゼンビー版007しか鑑賞していないが、それでも複数個所に過去作を彷彿とさせる設定が登場する。

つまり、本作はこれまでの007シリーズへの原点回帰作なのである。

しかし、それなら雰囲気や主題歌は前作の路線である必要はなく、もっと「はっちゃっける」べきだった。かつ、タイトルでもある宿敵・Spectreの登場は早計であった。

そもそも、ようやく1人前の007という扱いを受けた最初の作品で宿敵・Spectreをぶつけるのには機が熟していないと思ったが、そのボスである○○(ネタばれ防止のため)とJames Bondとの因縁が明らかになるのだが…後付け感と今更感が否めない(ネタばれになるので詳しく言えない)。かつ、演じるクリストフ・ヴァルツは、口達者かもっと狂気じみた役なら似合うのだが(『ビッグ・アイズ』はぴったりだった)、Spectreのボスを演じるには存在が軽い。拷問シーンやラストのヘリでの展開もあって、かなり隙があるように映った。
つまり当初の印象と逆に、SpectreこそがJames Bondと対峙するのに時期尚早だったのである。
最後に、ラストシーンについて。
これは、スパイ組織のメンバーが主人公と一致団結して敵と戦う展開は『ミッション・イン・ポッシブル ローグ・ネーション』、かつての本部で過去と宿敵に決着をつける展開は『踊る大捜査線 MOVIE3』とほぼ同じであり、まさに過去作のオマージュに溢れた本作の象徴のようであった。

期待と大きく反して、方向性が中途半端になってしまったために、個人的に残念な作品ではあったが、これまでの007へのオマージュがちりばめられていて、007ファンへの挑戦状的な要素は面白いと思うし、これで今後の007シリーズがシリアス路線に捕らわれる必要がなくなったという点で、今後の製作におけるターニングポイントとなりうる作品だと思う。

(最後のボンドガールとの一件については、ダニエル・クレイグが本作で降板になるとどうするんだろう…)


27/11/2015 先行上映@TOHO シネマズ くずはモール
31/12/2015 再鑑賞@MOVIX京都
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