あずき最中

たまこラブストーリーのあずき最中のレビュー・感想・評価

たまこラブストーリー(2014年製作の映画)
3.6
お向かい同士、おたがい餅屋の娘と息子のたまこともち蔵の恋愛模様と周囲の少女たちの成長を描く。

幼馴染みとの恋愛に憧れる人は少なくはないと思うが、創作上ではあまりにも「幼馴染み」然としている(主人公に過度に干渉する)せいで感情移入できないことも多い。
ただ、この作品のたまこちゃんともち蔵くんの距離感は絶妙だと思う。
二人ともそれぞれに同性の友達を持ち、好きなものや打ち込んでいるものがあるのが良いのかもしれないが、もち蔵が想いを伝えるまではお互いに空気のように相手に接している。

【たまこちゃん】
かわいい見た目の割りに、基本的にもち蔵くんに対してあっけらかんとした態度なのがとても良い。

【もち蔵くん】
絶対モテる見た目なのに驕りがない、たまこちゃんのことがすごく好きで爆発してしまいそうなのに、たまこちゃんに接するときは常に穏やか柔らかな物腰(それこそ「もち」のような態度)なのが良い。

思いの外、告白シーンは早く、たまこが飲み込めずにいる状態が続く。端から見ればお似合い、かつ相思相愛なのだから、じれったいと感じる人もいるかもしれないが、中学、高校あたりの恋愛ってたしかに慎重に、臆病になってしまうよなあ、と思うと自然な長さだったと個人的には思う。

みどりちゃんの好意について、かんなちゃん以外は気づいていなかったのは少し切ないものがあったけれど、言わずに飲み込んだという苦い経験もまた青春であり成長と言えるのだろう。

各人が進路を決めるなか、たまこちゃんはもち屋を継ぐことを明言しているので、そのあたりの迷いや成長はないように見えるが、「もち」(亡き母のようであり、悲しみから救ってくれた存在)のような人になりたい、と思いつつも、実際にその人物像に近いのはもち蔵くんであると気づけたこと、そんな彼のことが自分も好きだと気づけたことは、ある意味で母離れ、自立を感じることができる場面なのではないか。

監督が女性ということもあってか、直接的なセリフには出さないが、仕草や風景に人物の心情を示すシーンも多かった。
りんごや磁石は「恋とは引力」を示すし、うまく物をキャッチできないたまこちゃんは自分や人の思いをうまくキャッチできないで苦しんでしまう。苦いコーヒーを飲むもち蔵くんの姿には、彼自身だけでなく、彼に想いを寄せるみどりちゃんの苦さも重なる。

ただ、たまこ父ともち蔵くんのやりとりで「でもな...(東京から)帰ってこいよ」と言われたもち蔵くんがピクッとひきつったの描写が少し謎だった。
好きな娘のお父さんに本気のトーンで言われたからビビっただけなのか、東京からは戻るつもりがないのか...。

ありきたりと言えばありきたりなのだが、ラストの展開、エンディングの演出も必要以上に過度な描写がなかった(もち蔵くんはちょいちょい叫びすぎだけど!)。

主題歌の「プリンシプル」の歌詞の通り、震えながらも、まだ見えないなにかに手を伸ばそうとするそれぞれの想いが爽やかに描かれている作品だった。
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