森泉涼一

ソロモンの偽証 前篇・事件の森泉涼一のレビュー・感想・評価

3.5
構想15年を費やした作家人生の集大成と言ってもいい宮部みゆきミステリーを「八日目の蝉」の成島出監督、そして1万人のオーディションから主役の座を勝ち取った藤野涼子が主演を務める。前篇となる今作はこの2部作で一番の山場である「学校内裁判」の前に起こった事件を中心に描いている。
藤野が大人になり母校を訪れ学生時代の懐かしい話を校長先生との会話で楽しむシーンから。あの「タイタニック」の冒頭と同じようにここから回想のように物語が始まる。この花を咲かせた話から一変、事件は突然訪れ校内の裏で同級生の死体を発見してしまう。ここから大人と学生の間に大きな溝ができ裁判へと発展していくわけだが、今回の「事件編」の前半パートは校内で起った前代未聞の事件に対してどう向き合うかという所に焦点をあてている。真実を知ろうとする者、風化させようと考える者、様々な考えが錯綜する。後半パートは裁判に向けての準備を着々と進める生徒がいる一方で闇に包まれた伏線も次々と現れる。これが後編・裁判編への希望と期待を大きく膨らませる。
今回の前篇は目立ってここがよかったという点があまり見当たらない。その中でも役名と同様の名でデビューした藤野涼子は純粋無垢な雰囲気、澄んだ瞳、新人を匂わせながらも堂々とした演技は際立っていた。成島監督の主演女優を惹きたてる手法も相変わらずの魅力に満ち溢れている。藤野を中心とした周囲のメンバー。特に関わりが強いのが影で謎に満ちた柏木と裁判での肝になる人物である神原だ。彼らと藤野の関係は「八日目の蝉」の井上真央と永作博美の関係に似ている。お互いが反発しあいながらも時間経過と共に惹きつけ合う。ラストに近づけば近づくほど絆が深くなっていく。今作でも前篇・事件ではこの関係ははっきりしていないものの後篇ではっきりする時がくるだろう。
森泉涼一

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