白縄堤VS邪悪な洋画軍団

複製された男の白縄堤VS邪悪な洋画軍団のネタバレレビュー・内容・結末

複製された男(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

カナダ人映画監督デニス・ヴィレヌーヴが2014年にジェイク・ギレンホール主演で公開した作品。非常に難解な物語・コンセプトがヴィレヌーヴ監督特有の美しいシネマトグラフィーと融合してできたコンセプチュアル・サスペンス映画。

冴えない大学職員アダム(ジェイク・ギレンホール)はある日同僚に勧められ普段は観ない映画を鑑賞する。そこに居たのは自分と瓜二つの俳優。それに驚いたアダムは彼のことをリサーチする。瓜二つの男の正体はアンソニー、トロントの俳優事務所の三流役者だったのだ。この事態に困惑したアダムはアンソニーに連絡し、二人で会うことを提案するのだが、これを機にアダムとアンソニーの生活は互いに交差していくことになる...

というところがストーリーの大筋なのだが、正直これは重要じゃない。せいぜい観ればわかる内容だ。しかし、この映画のミソはこの作品に隠されたサブテキストにある。

この作品は「支配」の物語なのだ。しかもただ単なる抽象的な「支配」ではなく「性欲(リビドー)の支配」である。本作にはセックスシーンが結構数あるのでそれで多少の予測が出来たかもしれないが、これは結婚をして子供を授かったことを機に昔の浮気相手との関係を精算しようとしている元三流役者で現大学職員のアダムが自らの欲求不満と浮気相手との肉体関係への欲望を「支配」出来ないがために、自らの中でアンソニーという自分が本来ありたい姿のドッペルゲンガーを作ってしまう。ここら辺はファイトクラブの主人公とタイラーの関係を考えてもらえればわかりやすいのかもしれない。詰まるところ、アンソニーはアダムの支配できないリビドーがそのまま具現化されたその姿なのだ。

そしてこの作品に置けるもうひとつの要素、蜘蛛。作中に何度も何度も蜘蛛が登場し、謎のラストではアダムの妻ヘレンが蜘蛛になる。(?) これが何故蜘蛛だったのか気になった私は元ネタをリサーチしたのだが、どうやらフランス人芸術家ルイーズ・ブルジョワが作った蜘蛛の彫刻、ママン(母親)が元ネタになっているらしい。つまり、この蜘蛛は自身の性欲を抑えつける抑圧の対象だと考えられる。それを考えると、冒頭のストリップクラブで蜘蛛を踏む(抑圧する)描写も説明がつく。

正直、コンセプチュアルが過ぎてこの作品を理解するのは難儀の業といえるだろう。正直自分も考察を観るまでは置いてきぼりにされてしまったが、これを理解して初めて「嗚呼」となる作品であるのではないか。