Jeffrey

曼陀羅のJeffreyのレビュー・感想・評価

曼陀羅(1971年製作の映画)
4.5
‪「曼陀羅」‬
‪冒頭、海岸沿いに建つ一軒の小さなモーテル。波音と真っ白な空間で肉体的関係を持つ男女の描写。次の瞬間、曼陀羅の図像が映されタイトルバックされる。銃声、意味を問う女、恋人交換、情景の凝視…本作は実相寺昭雄がATGに遺した二作目の傑作で前作同様に撮影に同作の稲垣涌三が、出演に田村亮、岸田森など、監督の作品の常連で固めた。本作の浜辺での移動撮影は凄く、正に実相寺昭雄の力量が分かる名シーンで、黒ずくめの男二人に暴行され、衣服を脱がされ性的暴行を後退するカメラとクローズアップで魅せる遊覧と厭世的な場面と薄暗い青空と無人の海岸の捉え方は虚無感溢れ出す。続いて枯山水庭園の如く白川砂と岩を組み合わせた芸術的な庭の描写。そして時計の音と共に寺を内覧、細かなカットの積み重ね、重苦しい音楽が長く続く…次は自然へ、夜色と暮色の光のコントラスト、ユートピア論、新左翼の学生との遭遇、田植え的儀式、土地の企て、神の言葉と様々な難解な出来事が展開されてく。そしてまたシンボリックな海岸での寄せては返す波のリズムの中での暴力と強姦が男二人に行われる。この時の移動撮影と夕日に照らされ輝く海波と黄金色に反射する砂浜がまるで別世界…そう彼らが言うユートピアの如くまるで別の宇宙を見るかの様で神秘的だ。そして永久革命論を小部屋で始まり映像はモノクロームに切り替わる。荒療治と言われサディスティックに犯される女が鎖を首に付け神社の鳥居を潜り歩く様はホラー映画、その見てくれはP.ロジェのマーターズだ。このシークエンスから自殺行為までの一連の動きは女性には辛いだろう。そして本作のシーンの中で一際目立つのが奇妙なお面を付けた男女が太鼓の音と共に弥栄する。その神事ではない祝辞の風変わりな祭り事の印象は凄じく、桜井浩子演ずる康子の死を探る裕演ずる田村亮と信一演ずる清水紘治の駆け引きの場面でバックにカラフルに彩るイマジネーションが素晴らしく圧倒する。ここは本作の好きな場面の一つだ。寺が炎上する場面は怪奇大作戦の呪いの壺で見せた圧倒的な燃え方が描写される…そして砂丘を包帯で巻いた仏像を背負って七人の男女が歩くシュールな画、風光明媚な土地柄と山水の美しい画、衝撃的なラストを迎える船出、曼陀羅の図像を手にする真木演ずる岸田森のあの顔…怖い。にしても若い時の田村亮がかっこよく長たらしい論、台詞を言う姿やあの目力でカメラ目線等たまらん男前度。岸田森も男前やし、この時代の俳優の顔立ち好みだな。物語はモーテルで二組の恋人の淫らな映像から始まる。彼らは左翼学生の信一と裕、由起子と康子。その建物の支配人、真木がブラウン管で監視する。後に真木の手下二人に信一と由起子が襲われ、この計画は真木の仕業だと感じ始める。真木は彼らに農業とエロスによる単純再生産の法則が支配するユートピアに案内される。そこには白衣に身を包む真木夫人が居る。一方二人の失踪を知った裕と康子が彼らにユートピアは幻想と伝えるも、その間に部下に康子が犯され自殺する。その報復か裕は真木夫人を犯し、彼女もまた自殺に追い込まれる一人となる。そして自分の見た王国言わばユートピアの崩壊を悟った真木一味は新天地を求めて船出する…と言った具合なのだが、確かに難解極まる、だが観念的な主題の提示や官能的な事柄は面白く、だって全共闘のカップルが幻想集団の中で思想論争するんだよ…しかも全編ほぼ濡れ場シーンだし、ポルノとも思ってしまう実相寺ワールドよ。順に追って鑑賞すれば然程難しくない映画だし、‪とりわけ撮影の仕方や遠回しな言い方が凄く当時のATG映画の中でも極めてぶっ飛んだ作品達だろう。後の哥では和のテイストに西洋的音楽を取り入れたり実相寺は吉田喜重と共に異端児だ…。‬
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