長靴を吐いたネコ

リヴァイアサンの長靴を吐いたネコのネタバレレビュー・内容・結末

リヴァイアサン(2012年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【リヴァイアサン】 (Theatre)
2014年
総合評価 3.4 → ☆3.5

「シナリオ」 (1.0) … 1 → 1
→海洋ドキュメンタリー。起承転結皆無。単なる映像と効果音の羅列。

「演出全般」 (1.3) … 4 → 5.2
→ごく単純な漁船と自然の素材の組み合わせで、かなり上手に「怪物」を表現していたと思う。

「心理効果」 (1.5) … 4 → 6
→そのへんのホラーなんかよりよほど悪い後味。

「視覚効果」 (1.1) … 4 → 4.4
→闇を基調とした色彩に、不気味な光を放つ船や、不気味なほど鮮明な白色を放つカモメの群れ。

「音響効果」 (1.0) … 4 → 4
→無機質な機械的な騒音と、無作為な自然の雑音の組み合わせに徹底している。

「教養/啓発」 (0.7) … 4 → 2.8
→魚の気持ちがわかる。

「俳優/声優」 (0.7) … 1 → 0.7
→役者は居ない。

「独創性」 (0.7) … 5 → 4.2
→一般的なエンターテイメント性を一切排除することで、別のエンターテイメント性に到達するに至った、稀有な問題作。


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【ストーリー】
ぶっちゃけて言うと、漁船での漁師たちの仕事を淡々と垂れ流すだけの作品。ナレーション無し。セリフはたまに何か呟いているけど、よく聞き取れないし、字幕もないので、単なる雑音としての位置づけと思われる。

前知識無しだと、99%の人が「ナンダコレ?」と思うのは間違い無いし、私もそうだったのですが、この映画が醸し出す、他では味わえないような不気味な雰囲気に釘付けになりました。

途中で気づいたのですが、これは漁船と遭遇した魚目線の映画で、この映画は魚目線にならないと意味も魅力も汲み取れないのだと思われます。

不気味に光を放つ巨大な鉄の塊、自分や仲間を大量に絡めとる巨大な網、叩きつけられる甲板で周りを見渡すと、浮き袋を口から吐き出して横たわる同胞や、かつて同胞だった体の残骸が一面に散らばっている。無造作に同胞の体を「処理」していくのは、騒音を上げながら圧倒的なパワーで動き続ける無機質な機械と、見たことない巨大な生き物(人間)。とどめは、漁船の光に照らされ、不気味に白く輝きながら死を運ぶ、恐怖のカモメの群れ。

まさにこれは、当事者の魚達にとっては、世界の「終末」と呼ぶにふさわしいできごとでしょう。魚達がこの映画を見たら、恐怖で失禁すること請け合い。人間も同じような目に合って、同じような映像が残ったとすれば、それを観た人は絶望的な恐怖を味わうはずです。ですので、この映画は魚目線で見てこそ意味があるのだと思いますね。なにせ、本物の映像なので、恐怖も本物です。

最近、鬱映画を探し回っていた私ですが、この映画のおかげで相当鬱な気分を味わえました。




【蛇足】
リヴァイアサンとは、旧約聖書に登場する「最強の海洋生物」です。色んな映画(画像参照)やゲームでネタにされているので、どこかで目にする名前だと思います。或いは、社会の授業で習った記憶がある方も居ると思います。

トマス・ホップスが、何故リヴァイアサンなんてネタにした論文を書いたかというと、その最強っぷりが、まさに「現実の国家」と同じぐらいだ、と言いたかったようです。国家は、その国ではまさに最強の戦力を持った存在ですので、誰も逆らえません。ホップスは、そのことを懸念して、リヴァイアサンを縛る「鎖」が必要だと言いたかったようです。それが「社会契約」であり、「国民の権利」なので、国民の権利は、国民がリヴァイアサンから自分たちの安全を守る最後の砦ということになるのでしょうネ。

とりあえず、ヤバイぐらい圧倒的な力を持った存在の象徴として、「リヴァイアサン」という単語が使われる文化を西欧圏は持っているということです。