青雨

フューリーの青雨のレビュー・感想・評価

フューリー(2014年製作の映画)
4.5
この映画は、息子とスクリーンで観た思い出の1つでもあり、父と息子とで体験した、ひそやかなモテ期にも結びついている。息子が11歳で、僕はちょうど40歳になった年に2人で出かけると、様々な年齢の女性たちにいろいろ良くしてもらった。

幼少期から少年期にかけての息子は、戦隊モノやアニメにはまったく興味を示さず、なぜか『史上最大の作戦』(1962年)に7歳で夢中になるような子だったため、そうした流れから2人で劇場まで観に行った。そして、息子と2人で上映時間を確認していると、後ろから、20代の綺麗な女性が微笑みながら声をかけてきた。

女性「あの、これから映画をご覧になりますか?」
僕と息子「えっ、はい」(赤面)
女性「もしよかったら、このチケット差し上げます」
僕と息子「っはい、あの」(大赤面)
女性「私、観れなくなったので」
僕と息子「は、はいありがとうございます」(撃沈)

というやり取りの後、じゃぁと頭を下げて彼女が去っていく後ろ姿を見ながら、息子と2人で呆然と立ちつくすことになった。

妻を含めた(だから秘密でもなんでもない)何人かに、その女性がどういう心理だったのかを聞いてみても、こういう時の女性たちは、判を押したように意地悪になるため教えてくれない(それはそれで可笑しい)。そのため、僕と息子2人にとってのモテ期だったと解釈することにした。父親がブラッド・ピットに似ていて、息子がジェイコブ・トレンブレイくんに似ていたからだろうと。

それはともかくとして、息子と僕のツーショットは、たぶん女の人にとって、そのスペースに入ってみたくなるような、何らかの雰囲気を持っていたのだろうと思う。若い女性であれば、こんな家庭を持ちたいと思ってもらえて、大人の女性であれば、こんな頃があったと嬉しく思ってもらえるような。

そして『フューリー』は、第二次大戦下でのアメリカ軍の戦車戦を描いただけでなく、そうした父と息子の気配が、どのようにして生まれるのかを描いてもいる。父親がどんなふうに息子を思い、息子はどんなふうに父親に応えようとするのか。その背景にある、哀しみのような情景も含めて。



映画は、当時のアメリカ軍戦車が、vsゲリラ兵、vs対戦車砲、vsティーガー、そして市街戦などを、どのように戦ったのかを克明に描きながら、同時に、戦車隊長と新兵との擬似父子関係も織り込んでいく。

ウォーダディー(ブラッド・ピット)を隊長とする、戦車M4A3シャーマン「フューリー」に乗り組む5名は、新兵ノーマン(ローガン・ラーマン)を除いて歴戦の強者ばかりで、ドイツ兵を殺すのに躊躇するノーマンを、ウォーダディー以外はみな馬鹿にしており、やがて彼の躊躇(ためら)いが小隊に惨事を招くことになる。

マッチョと言えばマッチョな世界で、体育会系ホモセクシャルな雰囲気も漂わせながら、そして実際にこうした状況下では、間違いなくホモセクシャルな関係が(少なくともプラトニックには)結ばれるだろうと思う。またそれは、父と息子との関係にも本質的にあてはまる。

ウォーダディーは、父親のようにノーマンを叱責しながら、戦場という社会の承認を得られるように息子を導こうとする。それに抗いながらも、やがて息子は父親からの承認を通して、戦場という社会に踏み込んでいく。そこにあるのは、一種のホモセクシャルな受容関係であり、社会に出た男性が、男性上司と擬似父子関係を結びながら仕事を覚えていく姿のようにも映る。

映画の最後には、走行不能となった戦車vs歩兵という構図の戦闘が行われるなか、そのときに見せるウォーダディーの哀しみは、そこ以外に生きる場所がない仕事人としての男のそれのようにも見える。また、父性が宿命的にもつ、行き場のなさを表しているようにも感じられる。男性性には、自らの存在を無にすることによって、価値を得ようとする本性(ほんせい)がある。

そうした価値を共有することで、承認を得ようとするのもまた男性性がもつ1つの特性であり、そこにあるのは、ホモセクシャルな関係と言って差し支えないように思う。そのため、7歳のときから『史上最大の作戦』に夢中になった息子もまた、僕という父性から承認を得ようとしていたと思い至ることになった。

父と息子との関係には、そんな「いじらしさ」のようなものがいつでもあり、だからこそ2人でたたずむ姿には、どこか可愛く愛おしいものが感じられたのだろうと思う。



当時は息子と2人で、戦車戦のボードゲームを作りながらよく遊んでいたため、第ニ次世界大戦中に活躍した、ドイツとアメリカの戦車の動きをつかむ際に、この映画はとても役立った。

ボードゲーム上で、移動力・攻撃力・防御力などを適切に設定できたなら、映画に描かれるような結果に本当になる。息子は、ミリタリー好きならみんな大好きなドイツ戦車が大好きだったため、僕はもっぱら連合国側になった。

そのため、対ティーガー戦でブラッド・ピットが用いた戦術は、あれしかないことが僕にも良く分かる。ティーガーの恐ろしさは、本当にあのように恐ろしい。僕もまたあの戦法で、何両のシャーマンを犠牲にしながら、ティーガーを撃破したか計り知れない。DVDになってからも息子と何回観たか分からない、父子の思い出の1本。

最後になりますが、チケットをくださった綺麗なお姉さん、本当にありがとうございました。素敵な異性から親切にされることは、こんなにも思い出を華やかにしてくれました。息子もあなたのことを、特別な感情で覚えています。
青雨

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