ヴェルタースオリジナル

荒野の千鳥足のヴェルタースオリジナルのネタバレレビュー・内容・結末

荒野の千鳥足(1971年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

オーストラリアの1971年作品。監督は「ランボー」のテッド・コッチェフ。

クリスマス休暇に会いに行く筈だった彼女。なのに実際は1泊のつもりだった小さな町ブンダンバヤで、酒臭さと体臭にまみれた、親切な(押し付けがましい)町の酔っ払い達にそそのかされ、ビールを浴びるように呑み、ギャンブルに溺れ無一文になり、酔いつぶれては夕方に目覚め、またビールを呑み…と書くとただの酔っ払い映画のようだが、そんなことはない。

とにかく不快感と狂気が凄まじい。特に酔った勢いで猟銃を手にカンガルーをただ無差別に殺しまくるシーン(実際に殺している)は顕著に狂っている。酔いつぶれた勢いで小汚いオッサンと同性同士でセックスしたかのように仄めかされるシーンもある。

しかし、流石にここまで酒で狂った経験はないが、自分はこの感覚を理解できる。

酒を呑むこと以外に何も娯楽がないど田舎の小さな町で、酩酊しながら正常な判断ができなくなり、ふと目が覚めると時計の針は夕方4時を回っている−金のない地方生活者がこうしてアルコールに溺れていく状況は現実にある。自分自身を振り返っても身に覚えのある体験だ。だからこそ、この狂気じみた酔っ払い達の姿は痛々しくも感じられる。

同じくオーストラリア出身のジョージ・ミラー監督による「マッドマックス 怒りのデス・ロード」と同じく、行ってただ戻るだけのストーリーになっているのも面白い。
せっかくの休暇に、恋人に会いに行く目的も果たせず、酒を浴びるように呑み、愚かな行為に耽り、また何もない僻地に戻っていく、そのどうしようもない虚しさ。
その狂気も虚しさも、自分たちの暮らしとそれほど遠くにあるものではない。