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ザ・ウォークのtakeman75のレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
4.0
日本の宣伝ではまるで「心臓の弱い人は要注意!」みたいなスリラー映画みたいに扱われてるが、本作の本質は全くそこにあらず。これは「美」と「時間」そして「自由」の不可逆な関係性を描いた、最高に爽やかな後味の「芸術的犯罪映画」だ。既に本作のベースとなった実話は、傑作ドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』で描かれているので、事実上同作の映像補完リメイク的作品ではあるものの、綱渡師のプティを演じるJ・G=レヴィットの憎めない我儘坊主ぶりと、ゼメキス監督一流の時間を巧みに操った焦らし演出が、美しくも恐ろしい「虚空」の歩行を見事に構築している。確かにあまりにも後半の綱渡り場面が凄いので、それ以外の場面に仕掛けられた創意工夫が印象薄になってしまったきらいはあるものの、本当に思わず息を呑むほど美しい「詩情」を感じさせる場面が随所に観られるし(特に早朝の屋上での「謎の訪問者」との邂逅は、思わず涙が浮かぶほど素晴らしい)、これを単なる遊園地の高所疑似体験映画として流してしまうのは、あまりにも勿体ない。少なくとも近年、これ程澄みきった「朝の空気」を映画の中に取り込んだ作品を、自分は他に知らない。
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