木元

隠し剣 鬼の爪の木元のレビュー・感想・評価

隠し剣 鬼の爪(2004年製作の映画)
4.0
面白かった。藤沢周平の同名短編は既読。内容は3種類の短編(鬼の爪、竜尾返し、雪明り)を組み合わせたようなものとなっている。
美術、時代考証など、ディティールの凝り方が非常に素晴らしく、一つの確固とした世界が構築されているので幕末の江戸に浸ったような気にさせてくれる。
タイトルから連想するにもっと殺伐とした内容かと思うが、意外とお話の起伏は少ない。身分違いの恋や、友人の謀反から巻き込まれる任務……時代が移ろう中で日々生きる主人公の暮らしを、静かに映したものを眺めていく。前述した世界の強固さが、その眼差しを後押ししてくれる。
ただ、今見ると両手を叩いて喜ぶことができない部分もあるのは確か。そもそも江戸時代の話なのでこの視点を持ち込むこと自体がおかしいが、やっぱり支配的な男とそれに従属する女性のラブロマンスは、うーん。いきなり今の暮らしを捨てて蝦夷まで歩いてくれって、しかも命令ならオッケーって。素直に良かったねと寄り添ってあげられないのが悔しいところ。繰り返しになるがそもそも時代が違うので、現代の視点を持ち込むこっちが間違っているのだろうが。
まあ、体制側の侍にしては反骨的な主人公が、最後に隠し剣をきっちり決めてくれるところはスカッとする。それに殺陣も、それまでの穏やかな映像が嘘のような無情な決着を見せるので、その点も良かった。
きっちりとした世界観が魅力の本作、楽しめました。
2023.32
木元

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