人の家に忍び込んではお風呂を拝借するホームレスの男、ドワイト。
ボロボロの車で寝泊まりする彼に、警察から告げられたのは、両親を殺した犯人が釈放されたという事。
復讐を心に決めて、犯人を殺害する。
まず、この映画の面白いところは、復讐が結末でないところ。復讐したあとの話なんです。
これ、ほぼセリフがない。
故に、想像を掻き立てられる映画です。
そもそも、この彼が何故車で寝泊まりする浮浪者になったのかを想像するだけで切ない…
「あなたがバカなら許す。でも弱いだけ」
と言いはなつ姉。
両親の死後、この姉弟になにがあったのか。
足に放たれたボーガンをノコギリで切る地味な痛みや、そのあとの処置の痛み。かなり痛そうです。言葉はないけど。
なんといっても、ドワイトの切なさと虚無感の入り交じった、情けなくも不思議な表情。ギョロギョロと不安気に挙動不審に動く目。
彼の複雑な心境に想いを馳せてしまう。
原題は青の破滅。
適度に画面に表れる様々な青。
車の青。病院の服。ハガキ。青いペン。
とくに特徴的な、ドワイトの錆びたボロボロの車の青は、未来を感じさせるものではない。
パッション・怒り・情熱を感じさせる「赤」ではない、錆びた水色。彼のこの復讐に対しての感情がよく表れていると思う
(一方で、ドワイトの足に刺さったボーガンは赤く、復讐の怒りを感じる)
ドワイトの服装が、それまで水色の服から、途中で茶色に変わってからは、復讐に躊躇しているのではという、曖昧な人間味を感じることもできる。
彼が浮浪者という、世を捨てた身分である事もこの映画の特徴で、情けないといってしまえばそれまでだが、一度全てを失って何十年も非人間的な生活を送ってきた彼のバックボーンと、そこからの今を想像すると、この復讐がいかに深く重いものか。
髭をそり、髪を切り、とうの昔に捨てたはずの血の繋がりを守るために生まれ変わった彼…
後半、犯人の家族の家で手に取る青いアルバム。朝の青白い光。
そこで彼が感じとる葛藤。
そしてラスト。
「鍵は車の中だ…」と呟く彼にウルウルしてしまう。
雷のあとの住宅街。
姉の家に届く、ドワイトからのハガキ…
そして「後悔はしない」と歌うLittle Willie Johnの「NO REGRETS」に涙。
ただの、血を血で洗うリベンジものではなく、虚無感と空しさと、乾いたユーモアを感じるバイオレンス。