三枝木教授

仮面ライダー1号の三枝木教授のネタバレレビュー・内容・結末

仮面ライダー1号(2016年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

生まれてから最初に覚えたヒーローの名前は「仮面ライダー」、最初に覚えた主人公の名前も「本郷猛」だった。
ちょうどテレビシリーズ空白期に幼少期が重なったので、レンタルビデオや再放送で観た初代への思い入れは強かった。
だから、『オールライダー対大ショッカー』はショッカーを見るために劇場へ行ったし、本作も新作レンタルで観た。

結論から言うと、「制作陣の気持ちはわかるが、そのやり方はわからない」。

随所に初代リスペクトは見られた。例えばショッカーのアジト、電子音が初代のそれだった。あるいは立花レーシングクラブを訪ねるシーンも良かった。

しかし、他の方もご指摘の通り、本作で描かれた仮面ライダー1号や本郷猛は、実際には「藤岡弘、」という俳優が演じてきた役の集合意識のような存在だと感じる。

IQ600の秀才、レーサーを夢見る天才科学者。知的でスマート、それでいて剛健。これが私が幼少より抱いてきた「本郷猛」のイメージだった。
しかし本作では、質実剛健な「サムライ」イメージが先行しているように見える。
具体的には、「改造人間としての本郷猛」と「スポ根としての藤岡隊長/せがた三四郎」を直列に繋いだようなイメージ。

それは確かにわかりやすい。おもしろい。世間で流布する俳優「藤岡弘、」のイメージにも合致する。
けれど、それは決して『仮面ライダー』で主役を張り、事故や出奔などを経た俳優「藤岡弘」の姿ではなかったように思う。

『オールライダー対大ショッカー』の時も感じたことだが、金田監督は、確かにファンサービスが上手い。
「今の」観客の期待するショッカーや初代のイメージをつかみ、その期待に見事に応える。
本作で言えば、「古く、コミカルで、憎めないような」ショッカーと、「質実剛健な」1号の共演だ。
しかし、それは少なくとも、私が98話に渡って見てきたショッカーや1号のイメージとは大きくかけ離れていた。

ちょっと良さそうな対抗組織が現れると裏切ってしまう、緩くて愉快な、会社員じみた戦闘員。
直属の上司のために心血注いで奮闘する、人情あふれる毒トカゲ男。
死の世界で出会った謎の男の言うままにする地獄大使。
明るく清潔そうな、でも工事現場じみたアジト。
……それは少なくとも、私の知っているショッカーではなかった。

戦闘員。誘拐され改造され、洗脳されてしまった哀れな元民間人。無能ゆえにコミカルだが、コミカルゆえの無能ではない。転職できるような連中ではないはずだ。
怪人。人間味のある怪人もいるが、みんなそんなに明るい性格だっただろうか。
地獄大使。裏切者の汚名を着てまで忠誠を誓った首領はどこへ。
アジト。どこまでも薄暗く、邪悪で不気味な雰囲気はない。

言いたいことはわかる。表現したいこともわかる。でも、そのことと各アクターの細部とは一体不可分なはずで、それこそ『仮面ライダー』を彩る生命だったように思う。
……というのは、懐古趣味者の戯言なんだろう。
三枝木教授

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