朧気sumire

世界から猫が消えたならの朧気sumireのレビュー・感想・評価

世界から猫が消えたなら(2015年製作の映画)
3.4
映画のオリジナルラストが大好き。
といっても原作のラストにほんのひとさじ加えただけなんだけど。そのひとさじが私の心を温かくしてくれる。
トムさん、お父さん、ツタヤ。主役の"僕"を取り巻く人達も魅力的で大好き。

愛にあふれた映画。
死を目前にして湧き上がる後悔も感謝もなにもかも抱き込んだうえで「これで良かった。これらを含めて僕の美しい人生だった」と肯定できたのも愛にあふれていたからだと思う。

ただ原作の『木曜日の章』に有った、悪魔のせいでキャベツが人語を喋るようになっちゃった部分がまるまるカットされてて残念だった。映画での再現を楽しみにしてたので残念だった。
「猫まんまって、あれはなんでござるか?!あれは人間の食べ残しに無理やり名前をつけただけでござる!」「幸せだった、ということだけは覚えてるでござる」と喋るキャベツも見てみたかったでござる。
でも再現したら一気にシュールな映画になってしまうのでカットして正解だったかもしれない。

"死"というのは自分とは関係ない別世界のもののようで、今の暮らしはこのさき長く続くんだと漠然と思いがち。
自分の死であれ、身近な人の死であれ。
だから身近な人が自分に向けてくれている思いやりだとかもついついスルーしちゃって。今すぐ解決しなきゃいけない問題をズルズル先延ばしにしちゃったりして。
これは全ての人間に言える事だと思う。
だからこの映画の物語は至って普通。
良くも悪くもごく普通の物語。なんの面白みもない、ありふれた物語。
だからこそじんわり心に沁みる。

切ないけど温かい。
朧気sumire

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