ryutalos

私たちのハァハァのryutalosのレビュー・感想・評価

私たちのハァハァ(2015年製作の映画)
4.6
2015.10.1 テアトル新宿

「大好きなバンドのライブを見る」ためだけに、北九州の女子高生4人組が家を飛び出し、自転車だけで東京に向かおうとするロードムービー。

めちゃめちゃよかった。。。
憎悪や怒りや葛藤も描かず、これだけからっぽなのに、この熱量。
こんな青春の描き方があったか。
やられた。

「あたしこれに人生すべて捧げるんで!マジ覚悟ハンパないんで!」

みたいなのがもう!
うわー!恥ずい!イタい!

って目も当てられない恥ずかしい発言にゾワッとなったり鳥肌立ったり。
でもムードメーカーのこの言うことがいちいちちょっとおもしろかったり、ニヤけちゃうしどこか懐かしさがあってあったかい気持ちになったり、
「恥ずかし気持ちいい」という新しい感覚でした。

高校生のときなんて中身のない話ばかりで、将来自分がどうなるかなんて到底イメージできなくて、日本がどれだけ広いかなんか想像すらできなくて、半径10キロ以上のほとんどは未知の世界だった。
その若さでしかないパワーと、知らない世界に対する憧れの感じが、すごくよかった。

北九州市出身の自分からすると、4人が標準語なのが違和感あったけど、日本を縦断して色んな県を旅するときに、他の方言をたたせるためかな?
そのために主役は無印にしているんだと思うと、自分の中でストンと落ちた。

北九州という街は、田舎じゃないしまあまあ都会だけど、どこか行き詰まりを感じる。
この街をスタートの舞台に選んだのもいいなと思った。

本州とも海で隔たれているから、海の向こうはすぐなのに、なぜかセカイから途方もなく遠いように感じていた。

そんなセカイを知らない彼女たちが、自転車ひとつで東京にいく、なんて、、、
わくわくするじゃねえか!

言ってみれば「外は魔物がいっぱいいて危ないから家から出ちゃダメー!」って言われてるディズニープリンセスが、毎日にうんざりしちゃって憧れの外の世界へ飛び出しちゃうのとあんまり変わらないのよ!
羽ばたけ17歳!!

中心に据えられているものがクリープハイプでなくても成立する、というのも個人的にはとても良いつくりだった。
傍から見て「よくわからない何か」を目指して熱狂する様を見せられればいいのであって
ーもちろんクリープハイプだから出せる奇妙な狂信性ってのもあるんだけどー
そこの置き換えが可能な構造になっていることで、観客を選ばず、観る人はみな彼女たちの熱狂に興奮することができたのだと思う。

※あと皆さん指摘されているPOVの多用の失敗について。
少し擁護させてもらうと、これはそもそも最初からフェイクドキュメンタリーを目指していないんだと思う。
リアルなのは彼女たちの会話と見た目だけで、道中のヒッチハイクの奇跡の連続とか、男の車に乗って"ほぼ"何もされないとか、ツイッターで拡散されまくるとか、キャバクラで働けるとか、IDないのにクラブ入れるとか、ちーーーーーっともリアルじゃない!
あんなうまくいくのはあり得ないよ!リアルじゃないじゃん!気づいて!
彼女たちの行く手を阻む悪魔の存在が何もなさすぎることからもそれがわかるようになってるのよ。
フェイクドキュメンタリーが目的なのではなくて、無鉄砲に突っ走ってハァハァする美しさをいかに美しく描けるかが、制作のやりたかったことだったんだよ、多分。
だから北九の方言を使わないって手法をとったし、手持ちの自撮りと神様視点を「その瞬間瞬間の表現の仕方」で、"イイ"と思う方に使い分けていただけ。
その組み合わせがちぐはぐに見えて、のめり込めなかった、という意見もわからんではないんだけど、(最近だとバードマンも、ワンカット風長回しでやる必要あるの?と冷めた気持ちを持つこともあったし)
俺はこれですごく良かったと思う。
良くも悪くも、その辺の古臭い「お決まり」を無視した、新世代の無作法だけどエッジの効いた勢いが今時でいいなあと感じた。

話は戻って...
POVから切り替って、彼女たちを撮る神様視点はとても美しくて、
好きなカット、瞬間がいくつもあった。
公園で野宿してるときのあの感じとか、
海でスカートひらひらさせながら水辺を歩くところとか、
最初の自転車の引きのところもいいし、
バスの中で無言でラインでくだらない会話してて思わずニヤけちゃうところもいいし。
アフロ田中のときも思ったけど、一瞬の儚さを撮るのがうまいなあ。

青春を経験したすべての人たちへ。
あとどれだけ全力で走ってハァハァできるだろうか。
エンドロール後、このままカットがかからないといいなあ思った。
ryutalos

ryutalos