猫脳髄

インフェルノ 蹂躙の猫脳髄のレビュー・感想・評価

インフェルノ 蹂躙(1997年製作の映画)
3.4
バイオレンス・ポルノで鳴らした日活と、「女優霊」「リング」の脚本家・高橋洋がタッグを組んだグラン・ギニョール劇。「埼玉愛犬家連続殺人事件」などを材に取りつつ、突然行方不明になった姉(白石ひとみ)を探すうちに事件に巻き込まれ、次第に自我の境界を見失う妹(立原麻衣)の変化をたどる。

突然マンションから姿を消した姉・白石を探すため、部屋に住み込むことになった主人公となる立原。姉の恋人や刑事に接触するが行方は杳として知れない。すると姉の友人を名乗る由良宣子とその夫・若松武史が彼女を訪ねてくる。気分転換に誘われた由良の自宅には、数多くの猛犬と大きな冷蔵庫が構えてあり…という筋書き。

由良と若松が殺人犯であることは初めから明かされており、誘い込まれた妹をめぐる駆け引きがサスペンスの源泉になる。「姉を探す妹」のモティーフ(※1)はヒッチコック「サイコ」以来の定番だが、本作では姉の部屋に仕掛けられた装置から聞こえる音声(※2)と、彼女の恋人と関係を結ぶことによって妹に罪悪感が醸成され、それが精神的スプリットとして発動するように仕込んでいるが、その変化があまり有効に利用できていないように見える。

一方で、個別の道具立てやショット、シークエンスには見るべきところも多い。死後写真(※3)の登場や、マンションの構造によるフレーミングで不安に駆られる立原を映した見事なショット、そして明らかにジョルジュ・フランジュ「顔のない眼」へのオマージュであろう、クライマックスのシークエンスなどは見どころである。

※1 髙橋自身、「恐怖」(2009)で再び持ち出している
※2 例えば「霊的ボリシェヴィキ」(2017)や「リング2」(1999)でも奇妙な機械仕掛けが登場する
※3 写真黎明期から存在した、死者を撮影した写真群をさす。時に生きているかのように、遺体に化粧や目張りを施して撮影された。被写体の生死を指し示すことができない写真(そして映画もそうである)の特性による
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