Ark

エレファント・ソングのArkのレビュー・感想・評価

エレファント・ソング(2014年製作の映画)
3.7
2023-143
ローレンス医師が突然失踪しその行方を探すために、グリーン院長は最後にローレンス医師に会った患者であるマイケル・アリーンに話を聞くことに。マイケルは、①僕のカルテを読まない②ご褒美にチョコをくれる③看護師長を関わらせない……と条件を提示する。彼の本当の目的とは?


ほとんどグリーン院長とマイケルの会話シーンで出来ていて、後半にかけてマイケルの過去が語られる。タイトル回収も見事。切ないミステリー。

ネタバレ↓




マイケルは親に愛されずに育った青年。母親は国で随一のオペラ歌手で、常に仕事のことしか頭にない人だった。8歳の時に一度だけ父に会いに行ったが、父は彼の目の前で象を射殺。ショックを受けたマイケルだが、帰国後に母から象のぬいぐるみをプレゼントされる。14歳の時、帰宅したら母が薬を飲んで倒れており、「救急車を呼んで胃洗浄をしてもらうべき」と分かっていながら死にゆく母の横に膝をついて手を取り、母が教えてくれた“象の歌”を歌った。そして母は亡くなり、マイケルは精神病棟へ……。

8歳で父親が象を何発も撃って殺すのを見たら、逆に象が父親に殺されるのを見たら、そりゃ強いショックを受けて心に甚大な悪影響を及ぼすだろう。
院長と看護師長が娘レイチェルを亡くしていると知り、「あなたとピーターソンのような両親を持ったレイチェルが羨ましい」と呟くマイケルの姿が切ない。

象の数え歌を70以上歌ってから死んだということは通報できる時間は十分にあったわけだから、死にゆく母を見ても助けようとすら思わずただ見ていた、というのが色々と物語っている気がする。母のこれまでの行い、薄い関係、マイケルの精神状態が窺える。

象のぬいぐるみアンソニーを大事にしていたのは、自分と両親を繋ぐ唯一の物だからかな。父が殺した象、母がくれたアンソニー。楽しい記憶じゃないけど、愛されずに薄い関係の中で育った彼にとっては、アンソニーは両親との繋がりを感じられる唯一の物だったのかもしれない。

初めから死ぬことを考えていて、カルテを読むな、チョコをご褒美に、と言ったのかと思うと悲しい。自分のことを全く知らない院長になら通じるけど、看護師長にバレたら死ねないとまで考えて出した条件。なんだか、マイケルの人生があまりにも不幸すぎるというか……。14歳の時に母が死んで精神病棟に来て5年ということは20歳くらいだよね。でも気持ちは分かるよね。

愛されたいけど誰にも愛されない、ここから出たいけど出ることも出来ない。毎日毎日同じことの繰り返しで自由がない。きっと彼にとっては自分の過去も空洞のようで冷ややかなもので、希望などなくて死を求めたのだろう。
一応分かるんだけど、もっと深掘りしてほしかったかも。

ピーターソンは自分のせいで我が子を、院長は自分のせいで患者を死なせてしまった。これで2人ともが人の死という罪を背負うことになり、“おあいこ”と言える。これで2人の愛が戻ったんだと思うから、もしマイケルがここまで計算済みでやったとしたら とんでもない人だ。

ストレスと体が密接な関係にあるように、愛と精神状態は密接な関係にあると思う。
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