グスタフ

ズートピアのグスタフのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
5.0
ズートピアの連中は、僕達人間社会よりもはるかに身体的、能力的に差がある社会だ。何にでもなれるという街のスローガンは虚しく響き、皆それを踏まえて適材適所生活している偽りのユートピアだ。そしてたまに夢に溢れた理想論者が現れては、冷酷な差別の現実に膝をつく。しかしジュディは負けなかった。差別のない、よりよい世界を目指すための理想を捨てなかった。そして到達した先で抉り出される、無意識の内にしていた差別。

どれだけ差別することが愚かで、差別主義者を蔑んだとしても、それじゃああんたは一切のフォーカスもかけずに世界を見ているのかと問われたら、うなずく事はできない。ジュディのように、どこかで、草食と肉食を分けているのだろう。

僕はついこの間までレイシストの思想をもっていた。ヘイトスピーチに参加した事はないが、共感する所があった。差別主義者の親父とその一族と、そうではない母親との間に生まれ育ち、それでも筋の通らない憎しみに対してかろうじて疑問を持ち続けられた。しかし、僕はあっけなく世論に飲み込まれた。国内の誘導的な報道の存在はその思想を加速させた。
終焉となった きっかけは、隣国に対する意識の変化というより、どっちもどっちだという自国に対する意識の変化だ。察しと思いやりが日本人の信条?それが美しいのは本音と建前のバランスが絶妙なのだからであり、今の日本のどこに本音があるのか。汚い事から目を背け、綺麗事でフタをして、欺瞞に満ちたこの国に。対国家で物事を考えるのが馬鹿らしくなった。

差別はきっとなくならない。国家、宗教、文化、思想、人種の枠組みがある限り。事あるごとにぶつかって、火種は生まれ続ける。
そこを認めて、身を委ねる前に考える必要がある。人は考える事ができる。枠組みなど取り払える力がある。放棄してしまうのは簡単だし楽だけど、それでも止めてはいけないんだと思う。
ディズニーだからという言い方はしたくないが綺麗なラストだ。でもジュディやニック、ズートピアは薄氷の上に未だ立たされているのだ。希望を見つめながら。

先日一人で旅行中、同じく一人旅の学生と意気投合して飲みに行った。彼は在日中国人だった。祖父の代からこの国にわたり重労働を経て、今自分がここに生きている事。故に親には感謝してもしきれない事。短い間だったが有意義な時間だった。
どれほど多くの体験談を聞いたとしても、直接感じる一つの出会いに敵うものはない。

ああ、ほとんどレビューじゃねぇや…
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