だいき

ズートピアのだいきのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.6
ディズニーはそれでも我々に夢を見せる。

2017年アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞作品。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ長編作品55作目。
信じて努力を続ければ夢は叶う。
これはディズニーがアニメを製作し始めた初期の頃から作品に込められた思い。
暗黒期などしばらくディズニーでさえも試行錯誤する日々が続いていたが、2006年に転機が訪れる。
ピクサーを買収し、社内が経営主導からクリエーター主導に変わった。
『プリンセスと魔法のキス』では、ディズニーヒロインの典型であるプリンセスを問い直し、『塔の上のラプンツェル』では、人間的未熟さもある等身大の男性主人公を描き、『シュガー・ラッシュ』では、悪役の在り方を悪役自身に考えさせ、『アナと雪の女王』では、マイノリティとしての女性の生き方を物語にし、『ベイマックス』では、ディズニーらしいヒーローを描くことに挑戦した。

本作は、こうした経緯を歩んできた新生ディズニーの集大成的作品であり、ディズニーが今の時代にこそ伝えようとするテーマや世界観が明確になっている。
巨大な社会の中という非常にスケールの大きい話で、動物だけが暮らす動物の世界であり、その世界の中でも特に理想郷とされている「ズートピア」と呼ばれる街が舞台。
一見、子供向けに見える世界観だが、社会の現実を痛感している大人にこそ突き刺さる内容となっており、子供も大人も楽しめる当初のディズニーの伝えたいメッセージがふんだんに詰め込まれている。
世界観とストーリーに脱帽すること間違いなく、何よりも、国籍、人種、宗教、職業と様々な立場の誰が見ても嫌な気持ちにならず共感さえできる作りというのはなかなか真似できるものではない。

憧れの警官になった主人公ウサギのジュディは希望に胸を膨らませて大都会「ズートピア」に行くが、そこで直面するのは社会の現実。
ウサギだからという理由で重要な仕事を与えない水牛の署長ボゴは分かりやすいが、本作は社会の醜い面を動物の世界に置き換えることでマイルドに表現しつつも、しっかりと逃げずに描いている。
劇中で「人生は歌って魔法のように夢が叶うミュージカルアニメじゃない。“ありのまま”だ」という台詞がある。
完全に過去のディズニー作品の自虐であり、ここまで言うかと驚いたが、でも実際にはその通りで、ジュディは夢を一旦諦めるが、自分の偏見を潔く認めて、もう一度やり直す。
地道な捜査の積み重ねで謎を追い、これは魔法や愛の力で都合良くハッピーエンドにしてきた今までのディズニーにはなかったもの。
自己批判を交ぜながら、社会を風刺しつつも未来の展望を示す21世紀のディズニー最高傑作だった。
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