その気にさえなれば人生は取り返しのつかないことより、取り返しのつくことのほうが多いと思う。決して簡単なことじゃない。過去に置いてきてしまった何か、やらずに遠ざけてきたこと、フタをしてしまった本心。今の自分との乖離が大きいと、何よりも気持ちが付いていかない。でも、やり直しに遅過ぎることはないと信じたくなる。
ロックシンガーとして成功したけれど長年作曲はしておらず、酒やドラッグに浸かった自堕落なスター生活を送るダニー。若かりし頃酔った勢いでできた息子にも会ったことがなかった彼があることをきっかけにやり直しを決意し実行に移す。
やり直しと言っても、財力にものを言わせた強引なやり方をするダニーを見て序盤は「所詮成功者ならではのやり方」「何でもお金で解決する」という覚めた目で見ていた。が、バーでのライブシーンで彼の弱い心を目の当たりにしてからは見方が変わった。他が期待するものに抗ってまで自分を押し通すことができない弱さ。それを自覚し再びドラッグに逃げる脆さ。意志の強さはお金では買えない。息子への強引なやり方も愛情の裏返しであり、他に自分の愛情を伝える術を知らないからで、ほんとは繊細でとても不器用な男なんだなと思った。
後半の父息子のドラマは予定調和なところもあるけれど好き。ただ、惜しいなと思った点が2つ。1つは息子の母親とダニーとの過去がセリフでしか語られないこと。もう1つはダニーが一念発起して書いた曲が結局最後までフルコーラスで歌われなかったこと。この2つがあればもっと感情移入でき4点超えしていたと思う。
アル・パチーノはやっぱりカッコいい。歳を重ねて円熟味が増しダンディさに枯れた味わいが加わった。劇中流れるジョンレノンの曲も素晴らしさを再認識させるものだった。