ニジム

白河夜船のニジムのレビュー・感想・評価

白河夜船(2015年製作の映画)
3.5
この小説が出た頃にはもう吉本ばななは読まなくなっていたので、原作は未読。でも、吉本ばななの作風をうまく掬い取った映画だと感じた。

事故にあい寝たきりで意識もない妻を持つ男との逢瀬を待つ若い女寺子を安藤サクラ、その相手の裕福な男岩永を井浦新が演じる。寺子は最近親友が自殺し、そこから立ち直れないでいるが、彼女の仕事は、眠れない客と添い寝することだった。添い寝の間は眠ることはできないのだというが、考えてみれば始終「寝ている」割には男からの電話はきちんと出る寺子も似たような状況なのではないか。放置されながらの緊張状態が、ずっと続く。限りなく死に近い状態の生。しおりの言う「影を吸い取る」ということだろうか。若い女を自分の好みというだけで現実世界かは剥がし、飼い殺しにしている岩永は本当に薄情な人間だと思う。もちろんそれは寺子が自ら選んでのことだが、岩永が望まなければそんなことはしないだろう。

縛られているものは解放されなければならない。未来ある人を自分のためにだけ存在させるなんて、殺人と同じくらいに罪深い所業だ。

安藤サクラの無駄のないしなやかな身体が惜しげもなく写し撮られ、魅了され、目で追いかけてしまった。

ビルの合間に見える立派な花火が、悲しく美しかった。

現実を直視せず目先の快楽に耽る。その様子をタイトルの「白川夜船」とした、のだろうか。
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