花波

スポットライト 世紀のスクープの花波のレビュー・感想・評価

3.8

わたしたちは日々どれだけ真実に目を向けようとしているだろう。見逃していることも、見ない振りをしていることも本当はたくさんあって、それに気付くのはずっとあと、ようやく闇に光が差したときで、その時にはもう取り返しのつかない傷を負っている人々がたくさんたくさんいるんだろう。そしてそのことからさえ、ほんとうは目を逸らしているのかもしれない。


この映画が描いているのは、正義でも英雄譚でもなかった。ただひたすら闇の中を手探りで、必死にその真実を追い求めること。それだけ。

簡単に一人だけを非難しようとはせず、何ヶ月も掛けて全貌を暴こうと走り回った彼ら。その努力が掴んだ真実によって、世界中に激震が走る。たとえば自分の町で、通っていた学校で、すぐとなりの通りで。気付けたはずの距離でずっと行われてきた卑劣な行為。ラスト、彼らの目に映るのは正義を行ったという爽快感なんかじゃなくて、後悔というか、その言葉がいちばん近いけれどそれも多分違ってて、ここに到達するまでにどれだけの人が傷を負ったのか、もっと早く行動を起こすことが出来ていれば救えた人が確かにいるという、そのぞっとするほどの事実と虚無。何年何十年経っても絶対に消えることはなくて、思い出しては肩を震わせる被害者のその姿に思わず手のひらをつよくつよく握り締めていた。


教会の強大な権力とか、信者とか、そういう大きなものが隠蔽していたことがこれだけの被害を出したということに間違いはないんだけど、でもそれだけじゃないんだ。
「記事にしないことの責任は?」
宗教のことだからわからないとか、報道関係者はこうすべきとか、そうやって対岸の火事だと思って無関心でいることは、どうなの?その責任は誰がとってくれるの?

わたしたちはきっと隣の家に住む人のことさえほとんど見ようとはしていない。それがどれほど怖く、なんと無責任なことか。光が当たらない限り、闇の中で悪は蔓延りつづけるのに。でもそれが分かったところで一体何をどうすればいいのだろうと、途方に暮れた。
花波

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