森泉涼一

風に立つライオンの森泉涼一のレビュー・感想・評価

風に立つライオン(2015年製作の映画)
3.5
さだまさしがケニアで活躍した医師をモデルに楽曲を制作。これを基にさだまさし自身が2013年にフィクション小説を書いているが、この小説が基となりこの映画は完成された。フィクションといいながらも大沢たかお演じた島田航一郎の名前が変わっていたりというのはあるが、話の筋はおおよそ実話である。それだけにケニアという広大な大地と日本の医療との価値観が全く違う現場で活躍する島田には心うたれるものがあるだろう。
この島田航一郎という男は今作を観ていて非常に学べるところが多い。性格は常に前向きで何事にもチャレンジ精神が旺盛。加えて人に対する思いやりも強い。考えてみればやることなすこと日本とかけ離れた異国の地でただ医療を続けるだけでなく医療の発展に貢献しているというだけで尊敬できる部分である。一緒に働いている医療スタッフや治療したケニアの子供達、皆に愛されていることからも彼の底なしの優しい性格が窺える。
一番の見所は彼が発言する名言の数々。言うことに力強い信念があり、どこか納得してしまう。「人は誰かのせいにしないとやっていけない時がある」や「がんばれは人にいうセリフではない」という言葉を残しているが、初見で聞くと何を言ってるんだと感じるかもしれないが、映画を観るとこの一言に身震いする。それぐらい印象深いし、言葉の重みを再確認できるのは間違いない。
今作を手掛けたのは三池崇史監督。彼らしい大胆な演出は陰を潜めているもののこれも原作を大事に描きたかったという証なのかもしれない。その証拠に現場ではケニアの雑草一つにでもこだわりロケハンから力をいれていたという。ラストにながれるさだまさしの「風に立つライオン」、今回はシネマバージョンだがラストを締めくくる最高のデザート。本編を堪能し島田航一郎という人間を理解したうえで歌詞を追いながら聞くとオリジナルとは違った良さが発見できるだろう。
森泉涼一

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