みゆ

あんのみゆのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.4
2017.07.27(161)
録画


NHK BSプレミアムにて。

河瀬直美監督作品は「萌の朱雀」をテレビで見たのが最初で、その時は美しい奈良の風景に、まさに風が吹いたような気持ちになったものの、あまりに語らない描写に難しい感じも覚え、不思議な感覚だった記憶がある。その後「沙羅双樹」を見たのだが、やはり萌の朱雀の時と同じような印象で、雰囲気しか味わえていなかったように思う。そして次に劇場で見た「殯の森」で、ようやくきちんと理解出来たような達成感に近い満足感を得たのだった。

その後の作品は見たい見たいと思いながら機会を逃してきたのだが、やっと今日「あん」を見ることが出来た。

今迄の私が知っている河瀬直美の世界とは異なり、とても易しく分かりやすい、でも河瀬直美らしい作品だなと感じた。従来通り語りを抑えているものの、演出により雄弁さを得た分、多くの人に理解しやすい内容になっていたと思う。

他者にはなかなか理解出来ない「背負うもの」を持った者たち3人が距離を縮め、ふうわりとした幸せな時間を味わうも、それは長くは続かない。長くは続かない中で、樹木希林演じる年長者のとくえが語る「もてなす、聞く、見る」といったことが、如何に人生を豊かにするか、観客は気づかされていく。

内田伽羅演じるわかなちゃんが、とくえに手のことを尋ね、それをきっかけに図書館で最初に手にした本のタイトルは「いのちの初夜」だった。これは北条民雄の著書で、ハンセン病になった著者が書いた手記である。私も文庫版を持っていて、確か8〜9年くらい前に読もうと思って買ったのに、読む覚悟が出来ないまま今になってしまった。今回をきっかけに読もうと思う。

今回一番心に残ったのは、もっと自我を捨て耳を目を傾けなければ…ということだ。人が自我を捨てるのは容易ではないように思うかもしれない。だが真に何かを理解しようとするならば、まず対象をよく見なければならないし、そうすることが結局は楽しみや喜びに繋がるのだと、とくえの粒あんを炊く姿や自然を愛でる姿から学んだように思う。

浅田美代子がとても良いのだ。浅田美代子がいなくても、この作品は成り立たなかっただろう。
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