米粉

恋人たちの米粉のレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
5.0
最近歯医者に通い始めた。
きちんとした歯磨きの仕方も分からず26年生きてきてしまい、小さな虫歯が沢山あるとのこと、一つ一つ治療をしている。
痛くもないところを削られ、詰め物を詰められ。
いわばこの映画はそんな映画だった。
日頃なるべく見ないようにしているものをまざまざと見せ、痛みを感じないように庇っていた心の一部をえぐり、そこを新たな希望で補填する。
冷たいものを飲むたびにちくっと痛むのだけれど、数日経つと痛みもなくなり、変色していた場所が白く蘇っていることに気付く。
あと数日はそんなふうにヒリヒリとした痛みを抱えながら生きていくことになりそうだ。

先日たまたま見た番組で、あるホテルの支配人が話していたことを思い出した。
心のこもったおもてなしで評判が良かったホテルだが、ある日食中毒事件を起こしてしまう。
1週間の営業停止期間を終えた日、次々とかつての常連客から電話が入った。
当然クレームだろうと電話を取ると、ほとんどが励ましや予約の電話だったそうだ。
「あのことがあったから今の満足感がある。きっと順風満帆に人生を送ってきた人には決して味わえない満足感が」と。
私も今までわりと順風満帆な人生を送ってきて、家がわりと裕福なのも当たり前、いい大学に入って誰もが知ってる大企業に入ったことも自分の努力、挫折なんてしたことがないし知りたくもない、本気でそう思っていた。
しかし人生で初めての、きっと今後これほどのことはないだろうという大きな挫折を経験し、多くのものを失った。
どん底にいる時にこそ支えてほしい親友にも冷たい言葉をかけられ、もうこれ以上失うものはないという状況になった時、それでも支えてくれる人は沢山いた。
きっと言った本人は覚えていないだろうけれど、何てことない一言に励まされ、こんな私でも生きていていいんだと、本気でそう思った。
どんなに辛くても今まで「死にたい」と思ったことはない。
もし自分が死んでしまったら、きっとこの人たちは悲しむだろうと分かっていたから。
人間って自分の不幸よりも、大切な人の不幸の方がずっとずっと辛い。
だからそんな思いをさせたくなくて、どんなことがあっても生きていかなければと思った。
前を向いて歩いていても、たまにふっと昔のことを思い出して胸が苦しくなる。
それでも痛みを知った私は、前の私よりもずっとずっと人に優しくできるようになったし、私は今の私が大好きだ。
だから何があっても大丈夫、きっと。
この映画はどん底を味わった人の心をえぐるけれど、必ず新しい希望を吹き込んで背中を押してくれる。
大切な何かを失った人に、1人でも多く観てほしいと心から思う。
鑑賞後、綺麗な秋晴れの空のもと涙が止まらなかった。