ナイトリッチ

アリスのままでのナイトリッチのレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
3.8
★若年性アルツハイマー症候群と診断されたアリス。言語学者であり、大学教授であり、妻であり母であり、アリスである自分が、日に日に失われていく。

#泣ける映画と銘打たれていたから、そのつもりで観たんだけど、ものすごく怖い映画だった。
というのはね、女優さん・俳優さんの細かい演技もそうだし、家族会議の様子、本人や家族、周囲の心の機微がめちゃくちゃ生々しくて、かつ淡々と描かれているから。

#アリスは学者だし大学教授なので、バリバリのキャリアウーマンだし、良い母で、良い妻っていうのは冒頭の数分ですごく伝わるんだよ。だからこそ怖い。
いやみんなあることだよ……って思えるような些細な物忘れから始まり、よく知った場所で迷子になったり、たった今さっきのことも一切忘れてしまっていたりした矢先に診断がつくじゃん、それで最初はいやいやいやこんな賢くてしっかりした女性がそんな、アルツハイマーであるわけがなくない?と思うのに、段々と異常な状態になっていく。この過程が本当に怖い。

#アリスの娘・息子たちにもパートナーがいてそれぞれの生活があって、旦那さんも丁度仕事が上手くいって転勤先で責任ある立場になっていくっていう時で、
日常生活を送るのも困難になっていくアリスから段々と離れざるを得なくなっていくんだよね。
その中で、末っ子の娘だけがアリスの面倒を見るために残るんだけど、それは末っ子ちゃんが演劇女優の卵っていうふわっとした職業だからできたことで。
他の娘・息子たちや旦那さんの選択を「冷たい」って責めたい気持ちはあるけど、責めきれない。誰も悪くないことだから。

#音楽で盛り上げたり、女優さんや俳優さんにオーバーに悲しい演技をしてもらうことで「ここ泣けるシーンですよ!」って導く感じの映画、好きではないんですけど、
『アリスのままで』はそういうことは一切なくて、淡々とアリスの病状が進んでいく様子を描いてる。
淡々と描かれてはいるけれど、何もかも忘れていく中で、楽しかった家族の記憶を繰り返し思い出すことや、現実が夢みたいに見えていく様、きちんとその時々のアリスの気持ちに丁寧に寄り添っている……

#まだアルツハイマー初期の段階で、アリスが自分に向けてビデオレターを撮るの。
もしも自分の娘の名前を言えなくなったら、寝室の戸棚にある薬を全部飲んで眠りなさいっていうビデオレター。
それはアリスのままで死にたいっていう、アリスの苦しみで、パソコンのフォルダに保存しておいたんだけど、
病状が進んでよく物がわからなくなった時、たまたまアリスがそのデータを開いてしまって、「???」ってなりながら、よくわからないままにそのビデオレターに従ってしまうシーンがめちゃくちゃつらかった。
結局寸前で、たった今何をしようとしてたかすら忘れてしまって、自死すら叶わないっていう。

#物語の最初に受けたアルツハイマーの診断、本当に簡単な子供の知能テストみたいなもので、アリスも馬鹿してるの?って半笑いで受けてたのに、
中盤に同じテストを受けた時に、回答に苦労するようになってたところも怖かった……。

#っていう感じで、アルツハイマー患者の主人公とその家族の問題を生々しく描き切ってくれてたんですよ。
だからこそリアルで怖かった。

#物を考える時も人と話す時もみんな、まず頭の中で言葉を浮かべる、その言葉が抜け落ちていく恐ろしさについて考え込んじゃった。

#サウンドトラックがとても良いピアノ曲

#アリス役の女優さんの演技が凄まじい。
冒頭のアリスは本当に綺麗で健康的なバリキャリ女性なのに、闘病で日に日に疲れてやつれていって、最後、老人のようになってしまった様子を演じ切ってる。
アカデミー賞主演女優賞取ってたんですね!納得のアカデミー賞です。