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マリア・カラス 伝説のオペラ座ライブのodyssのレビュー・感想・評価

3.5
【歌姫の公演が大統領臨席で行われた時代】

1958年12月にパリのオペラ座で行われたマリア・カラスのコンサートを映し出したドキュメンタリー映画。モノクロ。

マリア・カラスは戦後長らく神話化された存在でした。私はオペラには詳しくありませんが、その実績に比べると、名声のほうが過大だったという気がします。実際、よく調べてみれば彼女の全盛期はそれほど続いたわけではないし、名声によるスキャンダルによって生きていた時代のほうが長いのです。また、映画でも彼女のそういう、いわば歌わずに生きていた時代を扱った作品がありますし。

けれども、この映画を見ると、戦後余り経たない1950年代にあってオペラ歌手というものがどのくらい興味を惹く対象だったかが分かります。フランス大統領を初め、著名なポピュラー歌手やチャプリンなどの映画人も聴きに来ているのですから。現代なら、いかに美声で美貌のオペラ歌手でもこれほど多数の有名人が聞きにくることはないでしょう。また、この時代を反映してチケットはバカ高かったようですし、パンフの値段も相当だったようです。それらの代金の一部はチャリティに回されたようですが。

この映画では特に後半の『トスカ』第二幕が見どころです。有名なアリアを初め、悪人を刺殺するシーンなど、演技面でも興味を惹きます。ただし、オペラで歌だけではなく演技にも細心の注意をはらうというのは、当時としてはそれなりだったかも知れませんが、現代なら当たり前のことになっているわけで、喩えて言えば昔の映画は息を呑むような冒険シーンも現代映画なら当たり前になっている、というような感想も湧かないではありません。
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