COZY922

エール!のCOZY922のレビュー・感想・評価

エール!(2014年製作の映画)
4.1
終盤のオーディションでの主人公の歌に、つーっと涙が頬を伝った。自分で自分の涙に驚いた。悲しいわけじゃない。寂しいわけじゃない。苦しさを乗り越えて何かを成し遂げた時の涙とも違う。素敵な話だけど親子愛にそこまで揺さぶられたわけでもない。

そのメロディに、彼女の歌声に、伴奏のピアノの音に、彼女の心情をそのまま表したかのような歌詞に、そしてどこか懐かしく感じたその音楽が自分の想い出に勝手にリンクして、頭で考えるより先に感覚が反応したのだと思う。

主人公ポーラ以外は全員が聴覚障害者という家族。家族の事情と置かれた環境のために自分の歩みたい道を選べないポーラに感情移入し、やむを得ないとはいえ子供の選択肢を狭めている家族への苛立ちを感じたり、その一方で、最後は収まるところに収まりそうな先の読める展開にちょっと冷めた目の自分がいたり、本筋にあまり関係ないコメディ要素に苦笑いしたりしていたのが、オーディションの歌ですべて吹っ飛んでしまった。

これよりも素晴らしい歌や優れた楽曲はごまんとあるけれど、多分、この歌が自分の心の中の何かとシンクロしたのだろう。

聴こえない家族の立場を観る側に疑似体験させるかのような学校での発表会の描写も良かった。

本作を観ながら思い出した映画がある。リバーフェニックスの『旅立ちの時』だ。従わざるを得ない『親の事情』は全く異なるけれど、あの映画も特殊な事情のある家庭とその家庭事情故に進学を諦めかけるティーンズの葛藤が描かれていた。強さと脆さ、挫折と希望が奏でる物語。そう、本作もまた、旅立ちの物語だ。
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