ベティー

エール!のベティーのレビュー・感想・評価

エール!(2014年製作の映画)
4.0
悪い人が一人もいない幸せな世界観で、安心して観れる。注意点は下ネタ要素くらいかな。
主人公の女の子がいかにも普通な雰囲気なのがすごくはまってました。さほど美人でもなく、肩周りがっちりしすぎでアンバランスな感じが、酪農一家の働き者の娘風ですごくリアル。そこは狙ってたわけじゃなくて、歌手の方らしいので歌唱力を買っての出演のようですね。

なんとなく海外のコメディードラマによくありそうな日常系ストーリーなんですが、新鮮で笑ったのがすごく激しい手話の動作ですね。家族3人が、主人公の子以外は全員聴覚障害者という設定なのですが、4人でダイナミックに全身を使って手話で会話する絵がなんとも可愛らしく、微笑ましかった。とくにお母さんが最高です。
それと、聴覚障害者として生きることの困難さなどの描写が深刻に表立っては全然でてこないだけに、肝心なところですっと持ってこられるとすごく心に響きますね。こういうさじ加減の良さはいいセンスしてるなあと感じました。
なによりも歌のシーンがすばらしかった。これは泣ける。ストーリーの展開のうまさもあるのだろうけど、声自体にすごくエネルギーがあって、聴いてると自然にぞくっときて泣けます。サントラほしいな。
障害の描き方もすごく好きですね。障害を日常的な物語の要素の一つ程度として配置してて、自然でいいです。家族3人が聴覚障害なので話の軸になるのは当然なのですが、それが極端に強調されていないというか。とても自然な感じがしました。もちろん現実には健常者の私たちには想像もできないいろいろな困難があるのだろうけど、そこを意図的にデメリットとして強調して描くような物語はあまり意味がないどころか有害でさえあるような気がしています。
障害者があってもなくても生きていくのは大変だし、障害があってもなくても下ネタ好きなやつは好きだし、意識低い系障害者とか犯罪者だっているだろうし、市長に立候補したのに全然市民の支持を得られない聴覚障害者もいるだろうっていう、あたりまえだけど理解ってそういう描写を見ることからしか始まらないんじゃないかなと思います。たとえフィクションでも。
むしろドラマの中のいい感じのキャラクターの特徴のひとつとして、たまたま障害があるような描き方をすることは聴覚障害者に限らずさまざまな偏見的感情を減らすために有効なのかもしれないですね。そういった意味でとてもバランスのいい素敵な映画だと感じました。テレビなどではよく、健常者を勇気付けるための素材として、ハンディキャップを背負っているにもかかわらず困難を乗り越え夢を叶える特殊な存在として描かれることがありますが、それよりも、姉の友達に手話を教える口実で近寄る性欲まるだしの聴覚障害者の弟にこそ親しみを覚えますし、こんなキャラクターが出てくるストーリーがもっとたくさん生まれるといいと思います。
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