樹

a piece of PHANTASMAGORIAの樹のネタバレレビュー・内容・結末

a piece of PHANTASMAGORIA(1999年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

たむらしげるさんのファンタジックでペーソスあふれるイラストでファンタスマゴリアという、ひとつながりの世界をつくり、その世界の様々な断片をショートストーリーとして見せています。

  とにかく、一枚絵の魅力が全てです。画面は風景画ほどの引きの視点で構成され、その中の小さな人物に思いをはせるよう作られています。モチーフはきのこや電球やサンタクロース等、現実にあるようなものが出ていながら、デペイズマンや抽象化を駆使し、幻想的でシュルレアリスティックなデザインに仕上げられ、想像を広げさせられます。センス抜群の高彩度色の配色が良く、しかし、ジョルジョ・デ・キリコにも通ずるような濃い影や白、地平線を使うなど、ペーソスも醸し出されています。

  さりげなく映る、ストーリーと無関係なエレメントは、後の章の話で登場するものだったりするなど、バラバラの話が織物のように一つの世界の話へとつながっていく様がおもしろいです。同じ場所でも違う話で違うキャラクターが来ると、その場所の持つ意味や、隠れていた設定が現れ、より豊かな光景に感じられるようになります。例えば星型の酒場は後の話で空から降りてくる仕組みであることが分かったり、店先に置かれたサボテンが意志を持ったキャラクターであるといったことが分かったり。一枚絵の場面同士が、そこを行きかうキャラクターたちによって結ばれ、立体的な世界像を編み出しています。
個々のデザインも面白い。ガラスの海とか、海上に浮かぶリカーショップ、砂時計の砂丘、ティーポット型のカフェなど、好奇心がわきます。

  ただ、出来れば、ナレーションは無くしてほしかったと考えます。確かに、言葉で説明された方がいいような設定があってそれはいいのですが、人の声を聴きたくないと感じてしまいました。特に、最後の「まどろみを旅して見つけた…」は気に入りません。この世界観は音のみで、できるだけ言葉なしの方が味わい深くなるのではないでしょうか。

  アニメーションとしては、あまり手が込んでないようです。もっと積極的に細かく動かなければ絵が持たない気がします。小さく人物を描いているからこそ、細かい体の動きや身振りは大事で、繰り返しの動きでは足らないのでは。それからアップのカットが無駄にあり、にも関わらずアップした瞬間画質の粗がみえたりします。アニメーションの作りは質不足な気がします。

  世界観は独特で、それは明らかに最高の価値です。こころが豊かになる美しい世界です。その価値が十分に活かされる制作の技術が伴っていない現状はもどかしく思います。
画集に出来ないことをアニメでやるという発想には賛同しますから、もっと、完璧なものを見たいと思いました。
樹