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四季~ユートピアノのもとのレビュー・感想・評価

四季~ユートピアノ(1979年製作の映画)
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こちらをじっと見つめる榮子がいて
音が鳴るたびに、何かを失う構造になっている。

その不幸は幼少期に兄と初めてピアノを見て初めてAの音を聴いた時から始まる。
幼少期の純粋無垢な榮子が当時母と兄を失い感じたものは計り知れないが、いつまでも天真爛漫な様子を見ると、本当の傷は周囲の人間には感じて共感できるものではないのかもしれないと思わせられる。そして実際そうなんだろう。
兄の姿をピアノに見て、音を追いかけ続ける姿には哀しさも漂う。
不幸な星回りの子でもある。

手持ちとズームとFIXをバランスよく使ったカットワーク。
最低限の情報とモノローグで綴られる映像。
何事も詳しくは見せない。
だからこそ、自由気ままで自然体な彼女のカットがおおい。

なにか起こる時の、不幸を感じさせるカットであったりつなぎがとても上手だと思った。
後半にかけて見慣れてくると、あ、また人がいなくなるぞ、と胸がザワザワしてくる。そして、変わらず天真爛漫な彼女がこちらを見る。時折、笑っていないし、泣いている。

もはや演技とは思えない、一般の方であろう方々と1回目であろう出会いや別れに、カメラがとてもついていっている。
見たいところでは人々の周囲を回り込み適正な距離感で撮影してしまう上手さに感動した。

もう一度近々見てみようと思う。
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