映画おじいさん

いらっしゃいませの映画おじいさんのレビュー・感想・評価

いらっしゃいませ(1955年製作の映画)
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高い天井、霞むほどの奥行…50年代半ばのきらびやかな百貨店の様子がうかがい知れるオープニングが百点満点。
公開当時は最先端ビジネスだったであろう百貨店が消滅しつつある現在、その様子だけでも泣ける。私が知る由もない時代だけど、そういう気分にさせてくれるのも古い邦画の良いところ。
あのロケ地はタイアップでクレジットの西武百貨店なのかな。ひょっとしたらセット&特撮?

画家で喰えなくり41歳で百貨店に初就職をしたボンヤリ森繁が、下宿先の子連れ娘、同僚、専務の妾の3人から言い寄られるというロマンチック・コメディ。

森繁の同級生役の東野英治郎。設定年齢41歳とは思えない老けっぷりというか成熟っぷりというか…とにかく笑えた。
その奥さん役に浪花千栄子。森繁に無礼をして後で恥ずかしがるレアな演技が可愛くて良かった。

東野英治郎との25年ぶりの再会で酔っ払い、帰宅後、寝ている下宿先の子供に向かって「大人になんかなるなよっ!くだらない!」と叫ぶ森繁。かと思えば嫁の尻にひかれる東野英治郎のことを「いい歳して」とくさす。
こんなところからボンヤリさんながらも妻に先立たれて男独りの森繁の心の揺れが何となく伝わるような。

ちゃっかり娘を演じる香川京子が珍しく存在感があるなと思ったけど、しばらくしたらやはり印象薄。

終始、森繁はボンヤリ。おかげで気づいた時には既に遅しというちょっぴり切ない結末が、それだけではない独特な後味になっていてとても良かった。