あるてーきゅう至上主義者

LION ライオン 25年目のただいまのあるてーきゅう至上主義者のレビュー・感想・評価

3.6
「予告編から察する限り、こうなってああなるんでしょ?ライオンって、だいたいこんな意味でしょ?」という、見る前の予想がほぼ的中する映画…なのだが、それでもちゃんと面白い。

インドを描いた最近のハリウッドの大作映画といえば、スラムドッグ ミリオネアか思い出されるけれど、あの映画はわりあいファンタジー路線に寄せた、一種のボリウッド賛歌だった。そのため、てっきりこの映画もほっこりしたお気楽ムービーの要素があるのかと思ったが、全く違っていた。なにより映画の前半の大部分を使って描かれる、貧富の差が拡大した結果としての現代のインドの社会的暗部が強く印象に残る。これでもかとばかりに描き込まれたカルカッタの街の貧民、孤児、収容施設の劣悪さの描写に全く容赦がない。

この部分は、インドの夢と希望を描くことに終始したこれまでのハリウッド製インド映画には描くことができなかった。それを描いただけでも十分に意義があるだろう。ストーリー自体は大方の想像通りであろう。ただ、サルーの家族に関する描写は、とくに彼の弟に関する部分をもっとしっかり描き込んで欲しかった。サルーと弟の対比で人生の明暗を対比させたのはよかったが、やや図式的になりすぎた気がしたので。サルーの義母役のキッドマンの演技や揚げ菓子を使った演出が丁寧だっただけに、余計に惜しまれる。

ただ、この映画を観た感想は、この言葉に集約されそう。
「グドゥ…いいやつだったよ…。」