Nemo

オーバー・フェンスのNemoのネタバレレビュー・内容・結末

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

いったいなんなんだ?「函館」という場所がもつこの雰囲気は。時が停滞した様な、モラトリアムというか、止まり木みたいな、たいして人生が好転しない場所は…。
・きみの鳥はうたえる
・そこのみにて輝く
・オーバーフェンス
函館が舞台の映画はこの三作しか見てないけど、なんか同じ様な気怠い非生産的なさびれた雰囲気を感じる。自分の人生にあんまり集中してない。ただ生きてるだけでたいした娯楽もなくつまらなく時を消費している。出てくる人物があんまり働いていないか、ナイトワークに従事している。周囲との交流や登場人物が少なく世界が狭く閉鎖的、みたいな感じ。と、ちょっと調べてみたら、すべて原作が佐藤泰志という作家だった。なーんだ、作家性なのか、納得した。今はちょっと自分との同質性が高くて苦手だから避けるようにしようかな…。

今作の主役白岩(オダギリジョー)はバツイチの四十代。失業手当目当てで職業訓練校に通っているが卒業後のアテも大工になるつもりもあんまりない。職訓の友達(松田翔太)に飯に誘われキャバクラに行き天真爛漫なキャバ嬢の聡(蒼井優)に出会う。この女がメンヘラ?破天荒?でめんどくさい。ダチョウの求愛のダンス?とかやっている狂気。この2人が会う会わないを繰り返して、職業訓練校のソフトボール大会でホームラン打って終わる。全ての有耶無耶を最後のホームランの清々しさで紛らわす。
基本的には上手くいってない現実を生きる人々を描くんだけど、最後に一筋の光をみせて終わる構成。

オーバーフェンスというタイトルは最後のホームランのためだったかと思ったけどフェンス(=囲い)というワードから連想される作品内のシチュエーションは多数あった。
・家族や仕事から放たれた白岩
・社会に出ず実務経験を積んでいないが先生をしている職業訓練講師
・実家の離れで生活する聡
・母親の庇護下で生活する森くん
・ヤクザから足を洗い幸せな家庭を築いている北村
・檻を開けても逃げないハクトウワシ
それぞれのフェンスから閉じ込められていたりはみ出したり逃げたり移ったり
お互いの囲いをとびこえてぶつけ合い融合させて居心地のいい居場所を作れたらいいのになあ。
フェンスの向こう側は自分にとっていいことも悪いこともあるし世の中は色々な人がいる。でもフェンスを乗り越えてみるのもいいもんじゃよ、とメッセージを受け取った気がする。最後のホームランのシーンは映画の暗めな内容に対して軽すぎ、清々しさで紛らわしたな?と思ったけど、何点でもとっていいし気軽に一発いってみなと受け取りました。私のフェンスの向こうには何があるのかなあ。

総じて演技が最高。蒼井優の発狂は天才。


白岩みたいな人当たりがよくヘラヘラ柔和で気弱な感じを装ってるけど、過去の何かを隠していて無意識に人を下に見ていてプライドが高くて性欲を余らせているつまんない人間が、私は苦手。聡に気に入られたからって浮かれてんなよ、お前なんか誰も愛せるはずがないんだからずっと独りぼっちがお似合いなんだぜ。ただ生きているだけでなんの面白いことも楽しいこともなくただ働いて死ぬだけ。性欲とか過去の暴露しあうこととか感情のぶちまけられを愛と勘違いしてんじゃねえぜ。
今はこの作品に対してすごく拒否的な反応してるけど、この鬱屈とした物語がいつか自分を救ってくれるかもしれないという期待を持って、佐藤泰志という作家の名前を覚えておくか…。
Nemo

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