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オーバー・フェンスのtakeman75のレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
5.0
ああ…いつ以来だろう。映画を観てここまで情け容赦なく心の中を掻き乱される感覚は。個人的な記憶をたどれば2014年、 熊切和嘉監督・二階堂ふみ主演の『私の男』と事故的に「出くわしてしまった」以来の衝撃か。敢えて粗筋を省いて評するなら、ある種の人には危険とすら言える程の「吸引力」のある映画なので、決して万人には薦められないが、恐らくこれは「届く人」には『 クリーピー』『ヒメアノ~ル』を超える本年度最恐のホラーとして記憶されるだろうし、真の意味で「号泣」に値する映画として『ベティ・ブルー』や『こわれゆく女』に比類する衝撃を与えるかも知れない。
まあ何を置いても本作の見せ場は、主人公を目覚めさせる「運命の女」に扮した蒼井優につきる。彼女の文字通り「崖の淵」まで踏み込んだ壮絶な熱演が無ければ、本作がここまでの磁力を保てたか疑わしいほど。もちろん、そんな彼女を受け止めるオダギリジョーの笑みの奥に潜んだ「闇」の顔も本当に素晴らしいし、松田翔太、満島真之介らのそれぞれキャリアベストと言える好演を見せるのも見逃せない。
とにもかくにも、佐藤奏志原作の『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」の締め括りとしても、甘く妖艶な気配に満ちた「函館ノワール」としても、そして山下敦広監督が長年育んできた「負け犬たちの哀歌」としても、文句なくベストの出来だと思う。これが今年の映画賞で無視されたりしたら、承知しませんよ。
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