レオナルド

この世界の片隅にのレオナルドのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.8
懸命に生きることのなんと尊く美しいことだろうと,まっすぐ訴えかけてくる作品でした.一般上映なのに上映後拍手が沸き起こる映画は初めてで本当に館内の全員に届いているのだなと思いました.

主題としてあるのがヒロインのすずさんの成長だと思います.小さくてのほほんとして可愛らしくて,何も考えていないように思えるすずさんですが知らない土地に嫁入りした彼女にはやはり様々な葛藤があります.絵を描くことを通して内面の深い部分に触れることができたすずさんですが,それができなくなったときの悲痛な叫びはつらく痛いものでした.また途中,哲との再会があり彼はすずさんに「いつまでも普通だ」と投げかけます.しかし,すずさんはその頃にはずっと強い女性になっていました.ならざるを得なかったのかなとも思います.

似たテーマの映画で大好きな作品に風立ちぬがあります.共通して描かれているところとして,いずれもいつの間にか戦争に巻き込まれていく苦悩があります.本作はどこまでもリアルで,なのに戦争をただの背景としてではなく,悲壮の対象でもなく,自然な憎しみを通して悲惨さを訴えかけてきます.そして終戦後もすずさんの生活は続きます.大切なものが奪われていく,それでもなお生きていかねばならない,そしてすずさん達庶民の「生」が連綿と今の私たちに繋がっているのです.この実感こそが風立ちぬとの,そして今までの戦争映画との大きな違いかもしれません.

そしてコトリンゴさんの曲が素晴らしかったです.作品に優しく暖かく寄り添ってくるようでした.予告や特報では「悲しくてやりきれない」が採用されていますがエンディングでは「たんぽぽ」が流れます.悲しさだけでなくこの世界に希望を見つけられた,象徴のような曲でした.

クラウドファンディングで集まった資金で完成した映画とのことで関わった全ての人に感謝と敬意でいっぱいです.素敵な作品を本当に有難うございました.今日はこの余韻に浸りながら眠りたいと思います.
レオナルド

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