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この世界の片隅にのKのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.3
戦争というのは普通に暮らしている我々にとって、賭け事のように簡単で、勝っても人々の生活がよくなる保証もなければ、目の前のボードゲームのように他人事だ。

その戦争があまりに近くて、自分の生活を蝕んでいた時代。
ただ、お上からの指示を受け日々の生活を切り詰め、家族をどこかへ盗られていっても笑顔で見送った時代。

その今では異常な日常の中を、彼らは当たり前と、歯を食いしばって生活していった。それが普通だった。

しかし、お国のためにと国を盲信し、固く無機質な軍歌のように、殉職を誇りと喜んでいた人間達だけではない。

昼夜、焼夷弾や砲弾の破片に怯え、戦争にいった夫や亡くした家族を思い出しながら影で泣き、誰しも異常と思いながらも口には出せず、それでもしっかりと前を向きながら生きていた人間達が大半だった。
この物語は、何もすずさんだけのストーリーではなく、戦時中当たり前のように繰り広げられて、消えていった物語の1つなのではないか。


五体満足でこの時代に生まれ、現在では不自由もなく、約束を守らない友人や、寒い朝、蜜柑の甘さにさえ苛立つような自分を、とても矮小に感じて、泣きながら映画館を出た。
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