あずき最中

この世界の片隅にのあずき最中のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.6
漫画既読の上、観賞(とはいえ、大分前に読んだので、ところどころ思い出しつつ観た)。

原作同様、すずさんの朗らかな雰囲気が好きだと思った。感情の起伏は少なめで、主人公の感情の変化が掴みづらい、という人もいるかもしれないが、それが作品の「普通の生活、日常」らしさと噛み合っている。

すずさんの性格やふるまいについて、能天気だと思う人もいるだろうが、あれは元々の性格に加え、危機において正常性バイアスが起こるようなものなのかもしれないし、もしかすると、すずさん自体が「いつもの生活」を維持しようと意識的に明るくしていたからかもしれない。
また、一貫して強くあろうとするケイ子さんは、すずさんと対称的な人物。彼女が悲しみや憎悪によって激しくふるまうシーンは見ていてかなり辛いものがあったが、それでも生きていこうとする姿はすずさんとは違う強さを感じさせられる。

気になったところ
・習作さんはステキ(とはいえ、すずさんをお嫁さんにするためにどんな手を使って探しだしたのかという)
・工夫して作られるご飯が美味しそう(とくに楠公飯、しかし不味い)
・ヤミ市が意外と栄えているのに驚いた(子供いたし)
・敗戦➡対極旗が上げられる場面
「暴力で抑えつけたから暴力で支配されるということか」
ここは賛否両論あるだろうけど、島国ゆえに、純血主義の強い日本で、戦争をし、(もしかすると、差別もあったかもしれないなかで)生きなければならなかった人々のことを考えさせられた。描かれなかったぶん、色々と想像を促される。
・リンさんのエピソード、エンドロールで回収されはしたけど、もうちょっと見たかった

全体としては、戦時中の人々も私達とそこまで変わらない価値観、生活を送っていて、だからこそ、穏やかな日常がじわじわと、あるいは唐突に崩されていく様が心にくる、という印象。

ただ、やっぱり「戦争なんだから」、というプレッシャーはあって、次の出征では生きて帰れないかもしれない、という水原さんに対して、周作さんがすずさんと一晩一緒に過ごさせる(会話以上のことがあっても、黙認していたかもしれない)場面は、人によってはショッキングな部分かもしれない。
しかし、あそこですずさんが水原さんの誘いを断り、周作さんに怒ったのは、戦争に巻き込まれ過ぎていない、という感じが出ていて良かった。
銃後の女性たち、学生たち、子供たちにも、それぞれにいろいろな思いがあっただろうと感じさせられる場面のひとつ。

それから、すずさんによる敗戦後の慟哭は、唐突でもあり、右翼的に感じてしまう人もいるだろう。ただ、勝利の神話を信じ、それだけが死者への弔いになると信じ、生きてきた人間からすれば、玉音放送ひとつで終戦を伝えられても、実感がわかず、では何のために戦争を続けたのか?と憤るのは自然な流れでは。
ましてや、たくさんの「もしも?」を抱えていたすずさんなら、そうなってもおかしくはないと思う。

終戦後の日々、戦争孤児のエピソードは、人間のたくましさと(こちらは悪く転がることもあるが)順応性の高さを感じさせてくれた。

直接的な暴力は描かず、戦争の中での生活を描いたことで想像をかきたてられる部分が多く、単なる戦争モノとは違った魅力があると感じた。
皮肉ではあるが、日本で生活し、歴史教育を受けたから推測できる、という部分も少なくはないので、外国ではどうなのかなあ...とは思うが、個人的には好きな作品だった。
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