トランク

この世界の片隅にのトランクのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5
戦争映画は好きな方だ。死と隣り合わせの絶望的な状況の中で、映画の主人公がどのように生き抜いていくのかということに感心させられる。

しかし、「この世界の片隅に」という映画は僕が見たことのある戦争映画とは違った。現代と変わらない日常のワンシーンがフイルムの中にあった。もちろん空襲や不発弾による攻撃によって人々が傷つくのは現代の日本では考えられない。映画を見ていて恐怖を感じたし、衝撃も受けた。
だけど、何気ない一コマが戦時中とは感じさせない空気にしてくれる。戦時中はみんな下を向いて生活をしていたわけではない。

この映画を見ている最中に、母方の祖母の戦時中の話を思い出した。何年も前に聞いた話だから記憶が曖昧であるが次のような話だ。女学校時代に畑仕事か何かをさせられている最中、教師の目を盗んで、友人たちと畑仕事をさぼったことがある、という話だ。当時の教師は体罰も当たり前のようにあっただろうから、自分がそんな行動を取れるとは思えない。

映画のシーンとこの話が自分の中で重なった。実際に戦時中生活していた人たちも、劇中のすずたちと同じようにたくましく生きていた。
そういうことに気づかせてくれた、教えてくれた映画であった。

私の父方の祖父母はすでに他界している。母方の祖父も昨年亡くなった。この祖父も戦時中の体験を話してくれたことがあった。すでに私の周りで生の戦争の経験を語ってくれる存在は先ほどの祖母しか残っていない。

あと10年もすれば、戦時中の話をしてくれる人はなかなか見つからなくなるだろう。この映画は戦時中の人々の生活を教えてくれる貴重な資料の意味も持つ。
その意味でもこの映画は後世に語り継いでいかなければ成らない。大げさかもしれないが、これはこの映画を見た人の使命である。

祖母も今年で90になる。あと何度会えるのかわからない。今度帰省した時、また祖母に話を聞こうと思う。

だらだらと長くなったが、いい映画だった。
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