やんやん

この世界の片隅にのやんやんのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.7
ぼーっとした主人公をぼーっと見るつもりが知らぬ間に引き込まれる映画。
映像、ストーリー、テンポ、音楽、表現、伏線…全てが素晴らしい。

全体を通じて、主人公の視点で物事が進んでいく。
もっといえば主人公の視点で描いた絵である。
自分の周りの世界だけを表現してその世界にどっぷりと浸かる。
最初にうさぎで表現された白波の絵の如く、空襲の様子すらも1枚のキャンバスに描かれた美しい絵として映し出される。
空襲で怪我をしたあと周りの世界がぼやけてしまうのは左手で描いたからなのだろう。

大切なものを簡単にどんどん奪っていく。それが、戦争。
友人のレビューによって戦争の話だということは理解して見たけど、マッドバウンドを見た後のこの作品はまた心揺さぶられるものがあった。
映画はセットにして見ることでより深く考察できることがままある。

戦争の時代特有の、ある時には非常に敏感である時は非常に鈍感である様が見事に表現されている。
それが敏感とか鈍感とかいう表現自体が間違っているのかもしれないが、独特の力強さがそこにはある。

日常を生きる。それ自体が必死。
戦争をしているとそうなっていくのだろう。
初めは小さな出来事でも大きな流れとなって自分の身に降りかかることがある。
ただ巻き込まれたに過ぎない。
しかしそこに確かに自分で選んだ道がある。
他人のせいにして責任から逃れても結局は自分の心を締め続けていく。
まずは自分の選択を受け入れること。
そして楽しみを見出していく。
それが出来るから主人公はどこにいてもマイペースで幸せを感じられる。
お姉さんもまたそれを知っていて、その大事さを主人公に説いている。

旦那さんとの出会いに最後まで気づかなかった。
男の人は会えなくても一途に思い続けることがやはり美徳なんでしょうか。
とても素敵な話ではあるけれど、上手くいったのは戦時中の日本であったからではと思ってしまいますが。
妹のことを思うと今後も辛いことが待ってるけど、でも凄く幸せな感じで終わってよかった。純粋にそう思えた。

だけどそのあとのスタッフロールが辛い。
絵を描いてるのも最後に手を振るのも右手。
そう、右手によってリンの物語が映し出される。
心が締め付けられる。
心の声とでも言うように。
そういうのを押し殺してでも、今ある幸せにちゃんと気づいて、それを噛み締めて生きてゆけ。

幸せとはまさしく日常。
日常に感謝しなさい。

いつかまた見ます。
やんやん

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