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エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中にのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「バッドチューニング」「6才のぼくが大人になるまで」の精神的な続編らしいリチャード・リンクレーター新作。最高にバカで楽しく、それでいて感慨深い傑作でございました。

「6才のぼく〜」が好きな人も流石に戸惑うんじゃないかってくらい今回は本当にストーリーとかないし何にも起こりません。本当にただただ主人公たちが大学の新学期が始まるまでの3日間の間昼間は暇を潰し、夜はナンパに出掛け飲んで踊って騒ぎまくる。面白いのは80年なのでまだまだ70年代の空気が強く初日は当然ディスコに行き、2日目はカントリー、3日目はパンクロック、そしてラストは仮装パーティと彼らはその場に馴染む格好をしてその場に相応しい音楽に乗せてダンスを踊ります。単純にアメリカ人いいなぁと思うと同時に、まだ何者でもない大学生を象徴する舞台なのでただはしゃいでる中にもちょっとだけ深みを感じさせる。

大体こんな調子でふざけてるだけの映画なんですが、つまりこの映画に溢れているのは人生で最もモラトリアムな時間に漂う開かれた未来への予感と多幸感なんですよね。それが1番端的に示されるのが冒頭近く野球部メンツで車を走らせ皆で「Rappar's Delight」を歌う場面。最高に楽しいシーンなんですけど、奴らは将来はおろか勉強の心配すらする必要がない訳で後から考えればこの時だけに許された幸福な時間な訳です。
そんなもん見せられてだから何なんだと感じる人も多い様な気がするしそれはその通りなんだけど、リンクレーター作品共通してグッとくるポイントはラストのラスト。ジェイクは野球部にも馴染めそうだし知的で楽しい彼女にも出会い最高の形で新学期を迎え最初の授業も早速居眠りする。その表情が最高に幸せそうで彼は絶対に充実した大学生活を送るんだろうなぁと思う。でも同時に彼にとってのこの3日目はもしかしたら彼の人生で最も幸せな時間かもなぁと思うと非常に切ないラストでもある。人生最高の時がたった今過ぎ去ってしまったという感覚。教授が黒板に書くのは未来を自分自身で探せということ。強豪野球部でも恐らくプロに行けるのはマックくらいかもしれないし、可愛くて知的でめっちゃ趣味も合う彼女に出逢い理解し合うトキメキももう2度とはないかもしれない。野球を辞めたら彼は何をするだろう?すごく印象的だったのはスカウトのジョークを馬鹿にしたジェイクに対するメンバーの反応。いっつもふざけてる奴らも内心ちょっと焦ってるんですよね。きっと彼らはこれから将来に悩み、社会に出ればますますしがらみも多くなる。この幸せが一瞬のものである事を知ってる人にとって彼らのこの幸福感であったり輝きだったりがすごく愛おしく感じるんじゃないかと思うし、同時に自分にもあった同じような時代のことを思い出すんじゃないでしょうか。だから何年も大学野球にしがみつくウィロビーとか恐らく留年して明らかに年が上っぽいフィンとかのバックボーンを想像しても少し切なくなります。

野球部メンバー全員素晴らしく好きなシーンを一個一個並べたいくらいですけどね。もちろん80年前後に流行った音楽のチョイスも最高。サントラ買いました。遠いテキサスの自分とは無関係の時代の話なのに、幸せなモラトリアムに浸れる感覚を思い出させてくれる作品だと思ったので劇場に行ける限り浸りに行きたいしこの先年を取って何度も見返したい作品になるだろうなと思います。
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