ゴトウ

ポンヌフの恋人のゴトウのレビュー・感想・評価

ポンヌフの恋人(1991年製作の映画)
3.8
『ポンヌフの恋人』は、フランスの映画だ。1991年製作。それまでに監督のレオス・カラックスが手がけた『ボーイ・ミーツ・ガール(1983年)』、『汚れた血(1986年)』があるが、以上の三作が主人公をアレックスという名にしていることもあり、アレックス三部作と呼ばれている。『ポンヌフの恋人』は、その三部作最後の作品である。
 題名のポンヌフとは、フランス・パリのセーヌ川に架かる橋で、フランス語では、「Pont(橋)Neuf(新しい)」とされ、「あたらしい橋」の意である。現在、ポンヌフは現存するパリ最古の橋である。竣工した1607年から約400年たった現在では、「パリ最古の橋」とされているとは、何とも流れた時代を思わずにはいられない。ちなみに、ポンヌフという、ラズベリーの赤と粉糖の白が交差させた模様のパイ生地で作られたフランス菓子があるが、それもこの橋から付けられた名であるといわれている。
 さて、この映画は、工事が中断しているポンヌフを住処としているホームレスの主人公アレックスと失恋の悲しみに囚われ、目の病気で失明の危機にある家出中の女画学生のミシェルとのラブストーリーを観せる。アレックスと出会ったミシェルは、共にポンヌフにてホームレス生活を送る。それまで愛とは無縁のアレックスだったが、次第にミシェルへの恋心が芽生える。フランス革命200年祭の華々しく打ち上げられた花火の下で二人は、恋に落ちる。しばらくして、ミシェルの目の手術法が見つかったという捜索願が街に出され、それを知ったアレックスは捜索願のポスターを街から葬り去ろうとする折に、殺人を犯してしまう。ミシェルは、手術のためにアレックスのもとを去り、アレックスは刑務所に入ってしまい、二人は離れ離れに全く別々の生活を送る。2年後、視力の回復したミシェルは服役中のアレックスを訪れ、二人は新たな愛を誓う。そして、あるクリスマスの夜に二人は、工事が終わり人々の行き交うポンヌフで再会の喜びを分かち合うが、ミシェルの一言に傷ついたアレックスは、彼女を道連れに真冬のセーヌ川に飛び込む。幸いにも通りかかった船に助けられ、二人はその船とともにル・アーブルへ行くことに。二人は船の縁に立ち、ミシェルの「まどろめ、パリよ」という言葉を残してこの映画は結末を迎える。
 過去、現在、未来を含む時間がこの映画には詰まっている。アレックスは、ポンヌフを仕切っているホームレスであるハンスから貰う睡眠薬がなければ、眠ることができない。二人が眠るシーンで、ミシェルが先に寝てしまうことを恐れ、ハンスに「早く薬をくれ。 早くしないと置いていかれる」と言うアレックスのセリフは、まさにパリの時間から置いて行かれた生活を営んでいるホームレスのアレックスが、心に抱える寂しさをあらわしているのだろう。アレックスが睡眠薬を使った窃盗で稼いだお金を故意にミシェルにセーヌ川へと落とさせるシーンやミシェル捜索願のポスターを燃やすシーンは、二人で楽しく愛に満ちた生活を送る現在を失いたくないと考える、愛を知らず今を生きるホームレス生活を送ってきたアレックスにとっては当然のことであり、アレックスの幼稚さを感じることができるが、これがまさに真実の純愛なのではないか。人の愛し方もろくに知らないが、ミシェルを愛してしまった。それは、盲目的で、幼稚で、自分勝手な愛の形だが、ミシェルを愛してしまったのだ。その過程は、私たちにとっては、悲しくもあり、同時に言い表し難い美しさを感じることができる。この映画のクライマックスは、フランス革命200年祭の花火がパリに打ち上がる中、二人が踊り狂うシーンだろう。このシーンは、最高に美しい。ゆったりと流れるセーヌ川に架かる橋の上で、アレックスがミシェルと出会って成長していくこの映画は、パリ最下層市民の時間とパリ市民の時間の差異を叫び終末する。「まどろめ、パリよ」という皮肉めいた言葉のなんと美しいことか。