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「ポンヌフの恋人」に投稿された感想・評価

lente

lenteの感想・評価

4.0
自己言及のパラドックスのなかで
レオス・カラックス
3/3

愛を強く求める女の子に応えようとした、愛を知らない男の子がいたとします。はじめ男の子は女の子を見つめ続けました。けれどそのまなざしを彼女が受けとることはなかった。そこで男の子は走り続けました。やがて女の子も走り出す。そうして2人は着地することを拒むように走り続けることになった。

しかし彼女が求めた愛と、彼が応えようとした愛はやがて別々の軌跡を描くことになります。地上から弧を描くように放たれた放物線が、一瞬のうちに交差しながらも別々の場所へと着地するように。

そうした寓話のようにレオス・カラックスのアレックス3部作を僕は受けとめています。またそのように第3作『ポンヌフの恋人』では、レオス・カラックスの頂点を観ると同時に、愛の崩壊に立ち会うことにもなる。



映画の冒頭はピカソの青の時代や、醜ささえも神秘的にあぶり出したレンブラントの赤を溶け合わせるようにして始まります。パブロ・ピカソ『セレスティーナ』と同じく左目をミシェル(ジュリエット・ビノシュ)は失明しかかっており、アレックス(ドニ・ラヴァン)が美術館で観た絵はレンブラントの自画像です。

そのためパリの街に巣食う芸術という呪われた血潮を、高密度で描き出しているような印象があります。

また「ここではないどこか」を描いているような高感度フィルムの空気感、絶望に揺れる水面、狂騒的になるほど静けさを増していく花火のシーンなど、小さなカットから大きなシーンに至るまですべてが素晴らしく感じます。

『ボーイ・ミーツ・ガール』では自己言及的パラドックスが断ち切られるように表現の自死を描き、『汚れた血』ではパラドックスを疾走させながら生と死の間をゆく地平を予感させた。そしてついに『ポンヌフの恋人』では、生と死の境界に永遠にとどまり続けるような緊張と官能が描き出されています。

老浮浪者ハンスの設定も面白く思います。かつて守衛をしていた彼は美術館をはじめパリのあらゆる施設の鍵を持っている。しかし芸術文化すべての鍵を持つハンスをカラックスは河に葬り去る。それはまるでモダニズムと決別するかのような象徴性を秘めていますし、この作品には20世紀モダニズムによって導かれながらも、その後の新機軸となるようなまぎれもなく価値のある何かを感じます。

少なくとも前半まではその気配に満ちていた。

けれどさながらアルチュール・ランボーのようにアレックスが拳銃で手を打ち抜いたシーンの後、驚くほど映像のテンションが落ちていきます。前半までの愛(アレックスの愛、カラックスの愛)は、対象を撃ち殺し焼き尽くすことを本質に宿すようなものでした。そこにあったのは、間違いなく生と死が永遠に交わることのない緊張感です。しかし後半からの愛は、エゴイズムのすれ違いやごまかしのようなものになっていく。

結果として前半と後半とでは印象がまったく異なる作品となっています。

20歳の頃にこの映画をはじめて観たときの奇妙な感覚を覚えています。アレックスの愛は自己憐憫による抱擁によってのみ生き、そして死んでいくことになります。カラックスの愛もまた、映画という時間のなかに閉ざされそして死んでいったのかもしれない。

このことが意味するのは、アレックス3部作がやはり自己言及的なパラドックスを強く内在させた作品だということです。現実的にレオス・カラックスの身に起きたことは映画製作のトリビア的な知識として少しは知っていますが、僕はそのことにはほとんど興味がありません。優れた作品はそうした予備知識を持たずとも、その核心を自律的に宿すからです。

どういう事情があったにせよ、劇中のアレックスの愛が自己憐憫のうちに死んでいくとき、映画監督としてのカラックスの愛もまた自己憐憫のうちに死んだ。彼らはエピメニデスのパラドックスのうちに疾走しながら、同時にそのパラドックス性ゆえに喪失される宿命を抱えていたのかもしれない。僕にはそんなふうに思えてなりません。

また僕が映画について語ろうとする言葉もまた、彼らと同じ自己言及的なパラドックスを内在させているという自覚があります。ですから何故彼らがあんなふうに失速したのかがよく分かるような気がしますし、ここにも言葉が自己崩壊していく姿が描かれているように思います。
ゲー

ゲーの感想・評価

3.5
期待しすぎてしまった。
恐らく3部作の最高傑作とされているのだろうけど、僕は『汚れた血』の方が好き。

すごいカットは、何個もある。
だけど全体としてチグハグしているし、空気も重苦しすぎる。

芸術・前衛として唐突な表現をやってるのか、監督の力不足故なのか、観ていてわからなくなる。
もういいよ、だるい……って感じつつも、スゲー!カラックス流石ー!ってなる時もあり……
困ったな。確かにすごい作品ではあるんだけど。

結末もなんだか、それでいいんだか……

あと、ホームレスの役だから仕方がないんだけど、ジュリエット・ビノシュの美貌をもっと綺麗に撮って欲しかったな。


ボウイが本当に好きなのね。
まゆ

まゆの感想・評価

5.0
青春三部作ぜんぶよかったセリフぜんぶメモしたいくらいすき
アレックスが火を噴くシーンと花火のシーン、雪降る夜抱き合うふたり、美しかったずっと忘れない
Yusuke

Yusukeの感想・評価

4.5
すごく生々しくて痛々しい。
幼稚性を持ってるが故というか社会飲み込まれておらずに無垢なままでいるためにブレーキを知らない感じ。
ただアレックスの方が無垢でありすぎた。

後半の、男が愛した女性から不憫な目に遭う感じはチャップリンの「街の灯」に近いなと感じながら見ていたけどそもそも目の見えない女性と出会って、その女性の視力が回復した後、彼女が属すべきの世界へ戻っていた。ってもろ街の灯だった。

ただこの映画が街の灯と違うのは最後二人が結ばれるということ。ただこの二人は本当に長く結ばれるのかと考えれるとそんなことはないんだろうな、という気しかしない。ミッシェルはおそらく眼科の人と結婚していた(眼科に飼い猫がいた)し、なんというか逃避行に近いような生活の中でトラブルが起きたらアレックスの元を去りあっさり安定感のある人と結婚するんだろうな、という予感がある。それは二人が自己中心的な世界を瞬間的に生きているが、それには限りがあるということなのかも。

映画を見終わった感想をメモしただけなのでのちに推敲したい。
花火の中で2人が踊るのは名シーン。
ジュリエット・ビノシュが可愛い。
前半は・・・な展開で何度か萎えかけたんだけど
中盤を迎えるくらいからグングンのめり込んでた

とにかくジャン=イブ・エスコフィエのカメラが見事
もう全ての画が素晴らしい
花火のシーンみたいな画があれば何も要らないね

ドニ・ラヴァンも良いけど
やっぱりジュリエット・ビノシュ!
画と同様に全てが素晴らしい
社会の底辺という厳しくて優しい世界の片隅で、言葉にならないような屈折した愛。キム・ギドクが影響を受けたというのも納得。
目覚めよパリ!
フランス映画ではじめて好きになった作品かもしれない。

このレビューはネタバレを含みます

とにかく美しい、なんなんだこれは?
踊り、花火、海、雪。

ストーリーも、男女の激しく狂信的な恋愛のありようを描いており、ボロボロの2人に見入る力がある。ただ、なによりも画面が凄すぎる。

伏線回収や引用の多彩さが評価される昨今。作品の歴史的な位置づけというのは、映画を取り巻く環境が劇的に変わっている今だからこそ大切だし、多くの作家が意識的だと思う。アネットを観て、カラックスもそうなのだとも思った。それ自体は素晴らしいことであるが、カラックスが若くしてとったこの作品には、もちろん連綿と続いてきた技術や当時のカルチャーも息づいているが、その全ては画面のために奉仕しているように思える。

社会派の作品というのは、大好きだしあるべきだと思う。問いかけがなければ、描きたいものがないのであれば、映画は成立しない。ただ、あらゆるものが社会の影響下にあるとわかっているいま、パーソナルな、破滅的で誰からも望まれない、しかし、反発とかではなくそうせざるを得ない、最高に美しい2人の世界を描いているこの作品こそ、今私が観たいものだと思った。
非日常な映像体験、破滅的で危険な関係、美しい音楽、凄まじく鬼気迫る感情表現、総じて素晴らしい作品だった。

いつ全てが終わるのか。タイムリミットを待っているような苦しさと、そこからの解放感が鑑賞後の余韻に繋がっている。
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