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はての島のまつりごとのmoeのレビュー・感想・評価

はての島のまつりごと(2014年製作の映画)
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私がこの島に初めて行ったとき、島の南にある広大な牧場のど真ん中にもうすでに基地は鎮座していて、島で一番高い山の上にはでっかいレーダーが4本立っていた。というか、私がこの島に行ったきっかけは、日本のいちばん西にある小さな島に基地が配備された、という新聞記事を見たことだった。

つまりこの島の動乱が、全て終わった後だった。

島のひとは誰も、一観光客である私に基地の話なんてしない。バスは基地前の停留所に止まるし、夏のエイサーでは当たり前のように基地で踊る。
観光客はそれをパチパチと写真に撮る。

島のおじいが私を軽トラに乗せて「レーダー近くで見るか?」と山の上まで連れて行ってくれる。それをパチパチと写真に撮る。

広大な崖の上に、さも地平線の先まで続くかのように広がる原っぱの向こうから牛の声がする。その音を全部拾い集めるかのように、背後から巨大なアンテナが私を見下ろしている。

私にとっては最初からそれが島の風景だった。
今思えばすごく不釣り合いだし奇妙だった。

少し酒が入ればすぐ島の将来について熱く語り出す島の青年たちが、基地について何も思っていないはずがなかった。映画の中で語られた言葉たちを、彼らはどこに仕舞い込んだのか。

今ではほぼ母語話者がいなくなってしまったという、島の言葉で談笑するお年寄りたちの姿を見ながら、私たちの見えないところでこぼれ落ちるかのように失われていったもののあまりの大きさに思いを馳せる。

この映像が撮影されてからの、この5〜10年ほどで、この島は外からも内からも、どのように変容を遂げたのだろうか。一観光客である私は、その姿にどうやったら近づけるのだろう。
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