地底獣国

リキッド・スカイの地底獣国のレビュー・感想・評価

リキッド・スカイ(1983年製作の映画)
3.4
40年近く前、本作が日本公開されるときに「スターログ」誌で紹介されていて気になったものの、当時の懐事情では月に何本も映画を観に行くことができず結局スルー。今回よもやのリマスター版公開でようやく鑑賞がかなった次第。

ヘロインを求めて地球に出没していた異星人がもっと良いもの即ち、人間がオーガズムに達した時に出てくる脳内麻薬に目を付け、ニューヨークに飛来する…

などと書いてはみたものの、このエイリアン、やる事がとにかく地味。予算の都合なのか宇宙船は直径40センチぐらいのミニサイズ、マンションの屋上に陣取って人のセックスを観察し(エイリアンの主観映像がプレデターっぽい、というか本作の方が5年早い。「ウルフェン」あたりから影響受けてるかも)、先述の脳内麻薬が分泌されたらこれを結晶化して回収する、抜き取られた人間は脳を貫かれて死ぬ、と言った具合。

まあこの設定とか何のメタファーなのか分からんけど、観ていてとにかく目を引いたのは1980年代初頭のクラブカルチャー描写。メイクというよりフェイスペイントと言った方がいい塗りたくり方、ひたすら目立つ事を競う髪型と色とファッション、セックスドラッグニューウェーブ、当時なんとなくNYに抱いていた「コワい場所」イメージが作品に保存されてる。映画を撮っている時点ではまだHIVが同定されていなかったが「どうもセックスを介して感染するらしい奇病」で死ぬ人がポツポツ出てきて不安が広がっておりそれが「主人公とセックスすると死ぬ」という設定に繋がったらしい。

そんな毒々しいカルチャー描写をぼんやり眺めていたら後半になって話の核、すなわち「生き方を他人によって勝手に規定され、人格を否定されてきたひとりの女性の遣る方無い憤懣」が立ち現れて姿勢を正すことに。やはり共産圏から亡命してきた監督だけあって奇妙な映画を撮っていても根は真面目とみえる。リアルタイムで鑑賞していたら多分そういうテーマとかも飲み込めずに「なんか変なもん観たな」で終わっていただろうから、今このタイミングで観れて正解だった。

とはいえ主人公が繰り返し性暴力に晒される展開は時代を考慮してもあんまりだと思うが。
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