工藤隆之助

ブルーに生まれついての工藤隆之助のレビュー・感想・評価

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)
3.9
題名の通り人生が麻薬によって狂わされ、何度も中毒と闘っていた彼が、物語の最後には妻ではなく音楽(ヘロイン)を選び再び妻が離れるという切ないblue な映画といえる。
良かった点として映画全体を通してどこか哀愁漂う雰囲気を醸し出す映像加工や、言わずとも素晴らしいjazz。そして彼の音楽に対する直感的な考え方を語弊無く表現していると感じた。

演奏技術としてはmilesに負けないほどの評価を受けていたが、本編ではどこか格上の存在として描かれている。確かにchetは彼の演奏にかなり影響を受けていたとどこかの記事で読んだことがあった気がしたのでそこには納得。

chetが若い頃に示していた自身の可能性をフルに実現できなかったという誤った認識を生じてしまう気がしたし、人生で確か100枚以上のアルバムを制作しているはずなのでジャズ界には確実に偉大な足跡を残してるのに
彼の全盛期のキャリアを映画の中であまり感じさせないのも(誰1人とchetだと気付かれないままピザ屋での演奏で素人に練習しろと言われるシーンなどから)、彼のblueな人生を感じれて良いと思った。

少し残念だなと思った点として、
そもそも50年代後半麻薬漬け期から話が始まってるので、chetがガソスタで働くまでどん底に落っこちてからキャリアの立て直していくというのを話の軸としており、最後のシーンで女性を愛したことがない不器用な彼がまたも音楽を選び、バードランドでの演奏を機に未来へ進んでいくという話に見えたが、
実際は70年代以降は流行を追うことでchetの衰退していたキャリアを復活させることができなかったと言われている。
そんな彼のその後の音楽人生を表すのに、ラストシーンでの演奏後からの演出が曖昧で勿体無いと感じた。さらに

"天使の言葉で歌っても愛がこもってなきゃシンバルも同然"

このセリフの後にchetが中毒から立ち直りきれるかどうか、彼がメタドンかヘロインどちらを選択したのかを描いてるので
ヘロインを使えばもっといい演奏ができるとかじゃなくてそっちを選んだchetに映画として、
最後もっと何か悲しみのパンチをしてたら最高にblueな映画だなともっと評価できたと思う。