花波

ルームの花波のレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.5

「人生を変える一本になる」なんて謳い文句、全く信用してなかったし、実際見終わったあとも涙で濡れた頬を拭いながら、それでも、人生は変わってない、って思ってたよ。でも、でもね、劇場を出て、まだ肌寒い四月の風に触れて、外の空気を嗅いだとき、「もしかして人生変わったのかも」って思っちゃったよ。

だって全然違うんだ。いつもと同じ夜、いつもと同じ風景、いつもと同じ匂いなのに、全く、違って見えるんだよ。人々が住んでるたくさんの灯りも、車の走るエンジンの音も、犬の鳴き声も、信号の明滅も。前髪を揺らす風も、コンビニで流れる流行りの音楽でさえ、こんなに愛おしいものだったのかと、初めて気づく。



少年にとって母と二人で過ごした ″へや″ は、世界だった。産まれてから5年間、その外にある ″世界″ に触れるまで。″へや″ を出た少年に襲い掛かる、音、光、音。それは煩わしいほどで、見たことあるはずの日常の風景なのにまるでわたしまで一緒に初めて触れているようで、心臓の奥から驚きのような、今まで味わったことのない圧倒されるような感情が湧き上がってきたんだ。ばかみたいだけど、知っているはずのその空の広さをもうただひたすら、すごい、って思っちゃったんだよ。そんで鳥肌まで立ってさ。そしたらどんどん泣けてきちゃうんだ。

今まで母と少年二人で半分こしていた世界は、もっとずっとたくさんの人々と分け合う世界へと広がって、そうしたらいろんな感情が増えて、どっと押し寄せる感情の波に飲み込まれそうになる二人がつらかった。それでもどんなときも母親を想う少年の健気さに涙が止まらなかったし、あの冷たい空気に触れたとき、観客である自分まで少年に救われたような、そんな気がしたんだ。




【追記】
いろんな方のレビューを読んで、捉え方の違いに驚く。わたしはこの作品は監禁の物語ではなく母と子が過去を乗り越える物語だと思ってる。新しい世界を知る、変わり得ない愛を再認識する。そこに重点を置いているからこそ、心に響く。 そう思う。
花波

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