麩菓子

メッセージの麩菓子のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.7
こんなに繊細なSF映画は他にない。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品が描く人間性は極めて本質に迫ろうとする分、受け入れ難い葛藤(一種のエグみ、不気味さ)も同時に提示してくるので苦手な人もいるかもしれない。現に私もそうだった。作風も物語も好きなのに苦手。

でもそんな人でも本作『メッセージ』は是非観てほしい。何もかもスッキリ解決オールオッケーハッピーエンドではないけれど、きっと後味の悪さは無いはずだから。鑑賞後には、主人公ルイーズとともに愛しさと喪失感、安心と不安、期待と絶望を共有しつつも、不思議とそれに不快感は無い。正直この絶妙な感情に心地良さすら感じる。本を読む人なら伝わるかな。あのちょっと分厚めのハードカバーを読み切った後の読後感。心地良い疲労と満足感で満たされる、それに似た感覚。
また、そんな感情をもたらすほど、主演であるエイミー・アダムスの演技は、あまりに繊細で美しい。

実は本作なんと今になってやっと初見。
ドゥニさん作品は好きな部類なはずなのに、観るとなると気合がいる、本腰を入れないと対峙できない。冒頭で述べた作風から、そんな印象が拭えず本作も敬遠してしまっていた。おそらく否、確実に『渦』『静かなる叫び』『プリズナーズ』あたりのエグみを思い出しておよび腰になってしまっていたよう。観れて本当によかった。
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